ファムファタールの絡むサスペンス映画という体裁だが、それだけで収まらない歪さが印象的な作品。正統的なエンタメとして盛り上がるのは前半部で、特にジャン刑事が容疑者を追い詰めてから銃撃戦へ移るまでの静と動の移行や、1999年から2004年へ時代が移行する際の、時空を歪ませるかのような見せ方など、日常と非日常の切り替えが独特の感覚で面白かった。あとは韓国や香港とはまた違う中国の街(雪降ってるから北のほう?)の空気感とグイ・ルンメイの幸薄そうな美しくさが際立っていた。
サスペンスとしては、終盤、『第三の男』ばりの余韻で終わらせるかと思いきや、あっさりそれをぶち壊してどんでん返し的な展開にしたり、その過程でキャラクター達が事件に至る心情を逐一台詞で語ったりで想像の余白を減らしてしまい、前半でグイグイきてただけに勿体無い感じはあった。しかしそこが通常のサスペンス映画との差異、異物感にも繋がっていて、事件そのものではない部分に焦点を当てている感覚を強くさせる部分でもあった。特に全てが終わったあとに展開するダラダラしたシーンは、グイ・ルンメイの表情と合わせてかなり意味不明で、サスペンス映画としては不要と思えるのだが、事件やキャラクターではなく、決して永続することのない人心そのものが主人公だったと考えると腑に落ちる、ような気がした(そもそも離婚で始まっている映画だし、だからこそ最後に登場するキャラは新婚さんなのだろう)。エンタメとして存分に楽しませてくれた上に不思議な余韻も残してくれただけでも充分満足の作品。