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Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

ドリフトグラス / サミュエル・R・ディレイニー 著 浅倉久志/伊藤典夫/小野田和子/酒井昭伸/深町眞理子 訳

    サミュエル・R・ディレイニー全中短篇を網羅しているらしいので、高価だが充分元が取れそうなので購入。

     現実世界から乖離した設定と物語、面白小道具、大道具でSFエンターテイメントを存分に楽しませながら、性的、人種的マイノリティー側からの視点やサイケな妄想描写を取り入れた先駆的なスタイルは、今のSFの源流のようで凄く面白い。特に構造やディテールはかなり日本のSFアニメにも影響を与えているように感じた。

    収録全作については以下。

    まず表題作の『ドリフトグラス』。鰓を装着して両棲人間に改造されながら、事故で陸地にしか生きられなくなった男が見つめる世界の情景が活写されていて、現在地より遠く、先へ行ける者とそれを見送るしかない者、そのどちらへとも共感のこもった描写が熱い。『スター・ピット』でも外世界を渇望する側とそこに手の届かない側の両者の生き様が描かれていて、そのどちらも胸に染みる。『ダールグレン』で登場したようなSFアクセサリーも楽しい。ガジェットで言えば『スノーピアサー』の万能列車を思わせるようなマシンが登場する『われら異形の軍団は、地を這う線にまたがって進む』、ここでは文明化を図る多数派とアウトサイダーとした生きていこうとする少数派という形で、進む者と残る者の対比の構図になっている。それぞれの信念のぶつかり合いがこれまた熱い。『漁師の網にかかった犬』はミコノス島から出て行く男女の物語で、閉じた世界と別の新しい世界という対比は前述の作品群に似たテイストだが、SF的要素は皆無。

     『コロナ』はマクロス』チックな銀河を渡るコンサートツアー、『アキラ』を想起させる病院に閉じ込められた超能力少女のイメージなど短編の中に先駆的なアイデアを詰め込みながら最後はちょっとほっこりさせてしまう美しい作品。同様に宇宙規模の歌い手が登場する『時は準宝石の螺旋のように』は少し観念的なクライムアクション風のSF。ここではホログラムはその断片でも元々の情報の全体が記録されているというテーマが登場。そんなホログラムを火星遺跡として登場させて、精神の話と絡めて描いたのが『ホログラム』。

    宇宙世界を支配するヴォンドラの下で、おそらく娘のように働いてきたギルダがその職を辞し、自らの道へ進む別離の場面を描いた『オメガヘルム』は実験として超速で生まれ死んでいく小型の疑似娘がグロくも悲しい。

   他に寓話的物語として貴婦人と一角獣』のタペストリーから妄想を膨らませた残酷な小編『タペストリー』、重罪により真鍮製の檻深くへ幽閉された男が自身の犯罪について語る『真鍮の檻』、幽霊女の怪談話『廃墟』
何でも食べてしまう〈友だち〉をトランクに詰めた灰色男との冒険譚『プリズマティカ』など。

    全く説明なしに出てくる設定とキーワードの連発に意味不明になりながらも異世界感を存分に味わえ、短いページの中で性的マイノリティーの哀愁のようなものまで伝わってくる『然り、そしてゴモラ…』。ブロブ』はよりはっきりとゲイの話で、ハッテン場のような便所での妄想とブロブと呼ばれる宇宙生命体との接触が並行に描かれつつ、時に互いに侵食し合うという変な話。変な話では、夢そのもののような『夜とジョー・ディコスタンツォの愛することども』は、妄想の迷宮を彷徨うような小編。

    そして『エンパイア・スター』。この壮大な円環構造の物語は、改めて読むと今のアニメを中心とした日本SFの雛形のようにも感じた。
     
     『あとがきーー疑いと夢について』では、様式的パターンの創造や数学的で壮大なシンメトリーの構成を第一義的に考えているという話も出てきて、基本的に娯楽作品の構造を持ちながらも、夢的でかなり突飛な方向へも彷徨う作風から、直感で書かれている部分が多いのかなと感じていたので、これも興味深かった。


    今作の新訳については比較対象を読んでいない(もしくはちゃんと憶えていない)ので何とも言えないが、文章としてはどの作品も読み易くて助かった。装丁も先に出た『ダールグレン』と対になる作りで、並べてニンマリだ。
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しかし、薄くてタイトルは読めん。


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