yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

花とアリス殺人事件

    岩井俊二自身がアニメーションで監督した花とアリス』の前日譚。
  
    中学三年生の有栖川徹子(蒼井優)は両親の離婚を機に、母とともに郊外の住宅街へ越してくるが、転入先の中学校では1年前に発生したという殺人事件の噂が学級生活に様々な影を投げかけていた。徹子は噂の真相を知るという荒井ハナ(鈴木杏)が、彼女の引越し先の隣家で〈花屋敷〉と呼ばれる家に住み、1年前から不登校になり引きこもっていることを知る。徹子はハナを強引に訪ね、真相に迫るが…。


    『花とアリス』なのに殺人事件が付くタイトルにそぐわなさを感じつつ観始めるも、展開していくのはまったりした物語で、血生臭さは皆無。というか筋は無視した場当たり的な展開で、ちゃんと前作のムードを保持。冒頭は都市伝説というか学校の怪談的な学園ドラマで幕開けして、その突飛さに多少面食らうものの、アニメというフォーマットがある程度リアリテイの線引きを緩やかにしていたのと、『なぞの転校生』で見せてくれたNHK少年SFドラマ的な面白味があって引き込まれる。

    物語はやがて前作と同様に何ということのない青春ドラマへ落ち着いていくが、ここでは『花とアリス』の変奏曲というような形で前作の記憶をなぞるようなシークエンスが頻出したりして、それだけでもかなり涙腺緩む。加えてアニメーションでありながら紛れもない岩井俊二テイストな画面の連続にさらに情緒を揺さぶられた。音楽もちゃんと岩井俊二本人が引き続きやっていて、これもいい。

    今回なぜアニメなのかといえば、『花とアリス』は蒼井優鈴木杏が演じているからこそ成立していた世界なので、再びあの世界で十代のハナとアリスを登場させる為にはアニメでやるしかない。そしてアニメ版指輪物語のようなロトスコープでやっているアニメーション自体は、冒頭こそ動きに少し違和感を感じるものの、岩井俊二の映画としか言えないムードの中を3Dでグルグル回るキャラクターがすぐに気持ち良くなっていった。前作では地方都市のちょっとくたびれた街並みだったのが新興住宅地のような雰囲気になってしまっているのはアニメの質感によるものだが、それも悪くなかった。アニメでの再現度でいくと友達の風ちゃんがそのままで登場したのが嬉しかった。
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    少し気になった点で言えば、ハナが引きこもりだったという前作の設定は、ひたすら陽性な映画世界が実は『リリィ・シュシュのすべて』の残酷さと地続きの世界だということに気付かさせる重要なポイントだったと思うのだが、今作はその引きこもり時期のことが語られるという筋立てながら、その内容がわりと軽いのと、ハナとアリスの出会いが前作の直前だということになっていて、そこはちょっとアレ⁉︎という気分にもなってしまった。しかし今作は前作の素直な前日譚というよりはパラレルワールドでの繰り返しのようにも作られていて、前作との気分や物語での整合性という部分はあまり重要ではないとも思えたのでどうでもいいと言えばどうでもいい。

     その繰り返しという部分ではアリスと別居中の父親(平泉成)の会食シーンや、アリスとハナがお互いの制服を見て、決めポーズからの『似合わねー』というシーンなどだが、そこら辺は時間とフォーマットを超越して再び名シーンに邂逅出来た喜びがあった。

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     あと今作の特殊な部分として、企業協賛による作品内の商品プロモーションは通常気持ち悪さしか見えないのだが、この映画でのキットカットの登場は『花とアリス』が好きな人なら納得できるうれしさで、なかなか奇妙なことになっていた。


    結論として、今作は再び『花とアリス』の世界を見せてくれただけで素晴らしかったし、アニメならではの過剰な描写もプラスになっていた。あと前作ではチョイ役に大沢たかお広末涼子テリー伊藤などが出てきてけっこうノイズだったのが、アニメというフォーマットのおかげで変なゲストが出てきようがないというのも良かった。これは定期的に子供文学シリーズのように続けて欲しいと真剣に思った。楽しかった!


    来場者プレゼントで岩井俊二のアナザーストーリー絵コンテもらったが、これはけっこう嬉しかった。