フランク(ボー・ブリッジス)とジャック(ジェフ・ブリッジス)のベイカー兄弟はジャズピアノデュオ〈ザ・ファビュラス・ベイカー・ボーイズ〉で十数年、ラウンジを中心に演奏活動を続けていたが、活動のマンネリ化に伴い実入りも減少しつつあった。フランクは事態を打開する為、オーディションの開催、女性ヴォーカリストのスージー(ミシェル・ファイファー)を加えたトリオで再起をかける。蓮っ葉な性格だが魅力的な歌声を持つスージーのおかげでベイカーボーイズは上昇気流に乗るが、彼女の存在によって兄弟の関係性に変化が表れ…。
二枚目で楽しく気楽に生きているように見せかけているものの、実は毎日のお定まりのスタンダード演奏にけん怠していて、即興演奏への熱情を胸にたぎらす男ジャック、ジャックの兄で容姿も音楽的才能も弟に及ばないものの、常識人でバンド運営は自分の経営的才覚に負っていると自負するフランク、奔放に自由に生きているものの、何者かに成りたいという夢を追うスージー、という三者三様のキャラクターの真摯な生き様のぶつかり合いが作品の魅力になっていた。
吹き替えなしでジャズボーカルを披露するミシェル・ファイファーは歌のうま下手関係なく、その演技力で妖艶なムードを醸し出して魅力的だし、ジェフ・ブリッジスも今のモジャオヤジ的風貌からは考えられないハンサムぶり。観ていてそんな2人をカッコいいな〜と思いつつも「妻と二人の子供には暖かい家と食事が必要、ローンもあるのだ!」という悲痛な中年の叫びのあとジャックに殴りかかりあっさりのされるフランクに、一番激しくシンパシーを感じてしまったりもする面白さ。全員魅力的なのだ。
そして、それぞれを類型的に描くだけでなく、例えばアパートの上階に住む孤独な少女の子守役的立場を自認しているジャックが、実は少女によって孤独を癒されている立場でもあったりするというような、表層とは真逆の関係性を露わにさせることで、人物により一層の味わいを加えてみせる辺りも良かった。
素晴らしいキャラクターと音楽、そして雰囲気を味わえる傑作。