yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 (2015)

   2002年に日本の国防体制刷新を求め幻のクーデターを企てた柘植行人は当時の特車二課の超法規的活躍によって逮捕された。しかしその事件から13年後の現在、柘植のシンパが光学迷彩を備えた陸自の戦闘ヘリ・グレイゴーストを強奪。再度首都へのテロ攻撃を開始した。対して世代交代を経た特車二課の面々は、組織解体の囁かれる中、公安の高畑警部(高島礼子)の導きによって独自に事件解決へと動き出す。
    監督脚本・押井守、特車二課のメンバーはドラマシリーズに引き続き、後藤田隊長(筧利夫)、泉野明(真野恵里菜)、塩原佑馬(福士誠治)、カーシャ(太田莉菜)、太田原勇(堀本能礼)、御酒屋慎司(しおつかこうへい)、山崎弘道(田尻茂一)、整備班長シバシゲオ(千葉繁)、整備班副長淵山義勝(藤木義勝)。


    押井守自身が言っている通り正に怪獣映画。咆哮とともに首都を蹂躙するグレイゴースト。全く違和感の無いCGによる都市破壊映像が気持ち良すぎて快感。グレイゴーストを操る灰原零(森カンナ)の無機質な存在感も素晴らしい。零という名は押井守作品に時折登場するけど、今回は機械のような人物像という意味でも神林長平の『戦闘妖精雪風』の主人公深井零をどうしても連想してしまう(女性だけど)。良かった。

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    今回は通常上映と4K上映両方で観たが、4Kが格段にクリアで、通常上映だと潰れていた暗闇での戦闘シーンなども観やすかった。その分フィルムっぽさは無く、いかにもデジタルな肌触りで最初は違和感もあったけど。ドルビーアトモスは福岡では対応している劇場自体無かったので体験出来なかった。


    で、多分ここからはネタバレしてると思う。まず冒頭、熱海での制服でもツナギでもない私服カーシャの乱闘シーンだけでももっと観せて欲しい!という楽しさ。隆大介もちゃんと出てきて良かった(もしセカンドシーズンやって、また熱海が出てきたらちゃんと出して欲しい)。そしてこの時点でちゃんと二課のキャラクターを前面に出してきたことで、今作ではファンサービスもちゃんと引き受けてやるという姿勢が分かって嬉しい。

   物語はレインボーブリッジが爆破されるという、横浜ベイブリッジが爆破される『パトレイバー2theMOVIE』と同様のシチュエーションで始まっていくが、ストーリーと見せ方は『パト2』をなぞりながらも所々でそれを裏切りつつ進行していく。観ているこちら側も『パト2』を再体験しつつ、実は全く別のテイストを味わうという作り。さらに作中の後藤田自身も、事態の進行を初代隊長たちの歴史を繰り返しの悪夢として感じながら時折過去を幻視するという状態で、映画は記憶によって成立しているという押井守の言説を作品の外と内から、しかも自身の素材を使って実践してみせている。こちら側の現実の映画体験と虚構内人物の記憶が重なる共通体験の気持ち良さと、微妙に変奏していき全く別の展開になっていく部分の意外性というのがエンターテイメントの仕掛けとして凄く面白かった。

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    しかし今回のTNG世界と『パト2』の世界が地続きということだと、『パト2』で自衛隊調査部・荒川の声をあてた竹中直人が今シリーズにおいて別人で登場したのは違和感あるが、あのキャスティングも劇場版への仕掛けというか引っ掛けとして計算のうちか。企画段階では物語の狂言回しとして公安の高畑でなく荒川が登場するという案もあったみたいだし。

     その荒川の立ち位置に置かれた高畑も、こちらの想像、つまり事件の黒幕的存在という予想を気持ち良く裏切って、シンプルに正義を貫くカッコいい女性として描かれていて、過去作を観ている観客にとっては意外な楽しめ方、初見の観客にとっては素直で爽快なエンターテイメントとして楽しめるという作り。高畑というキャラの内情については特に何の説明もないので、彼女が南雲の精神的同志だったのか、柘植と何か過去に関係があったのか、などなど色々想像させてくれて楽しいし、演じた高島礼子がそれだけ奥深いキャラとして魅せてくれていた(しかしリップサービスかも知れんが高島礼子パトレイバーのファンだったというのは意外、というか想像つかない…)。

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    そしてシリーズに引き続いて今作でも一番美味しいところを持っていったのはカーシャ。中盤の敵アジト進入での銃剣アクションが男前過ぎるカッコよさ。カーシャは抜群にカッコいい女性キャラとして記憶に刻まれるキャラクターだ。で、ここでのアクションはその他の特車二課のヘタレっぷりも含めてほんとに楽しいのだが、このパートは辻本監督の仕切りということで、アクションの辻本というのは伊達じゃないなと思った。あとカーシャの銃剣を銃弾の嵐の中拾いに行こうとする明を抑えて死地へ飛び込んでいく御酒屋とか、シリーズの間抜けな蓄積があってこそグッとくる展開も良かった。

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    脚本的には色々裏切りやら捻りがあるのかもと思わせておいて実は全くの一本道で、しかもアジトを教えてもらってそこを急襲→ほんとに敵のアジト、とか、レイバー積んでウロウロしていれば敵がやってくるだろう→実際やってくる、など安易すぎる流れでかなり雑だった。しかしそもそも構造と場面ごとの面白さで見せようという作りなので、わりと気にならない。というか確信犯か。なので『パト2』の記憶を皆でなぞろうという面白さを持ちつつ『パト2』とは全くベクトルの違うエンタメ作品になっていた。まあ二課棟が破壊されたシーンで、嘆く千葉繁のバックで劇盤が演歌調に変調していくという押井&川井コンビの遊びが入る余地自体『パト2』ではあり得ないからな(ちなみに川井憲次の劇盤は文句なし)。

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     ベクトルが違うということで顕著なのは『パト2』の後藤が、柘植の思想に共感するしないは別として戦後民主主義的平和をハナから信用していなかったり、後藤=GODの視点で事態に対処していたりして、観客から超越した存在だったのに比べ、今作の主人公である後藤田は信を置く場所すら定まらず、ただ後藤に振り回され続けるというように観客と同じ側に立って描かれているところ。なので敵も思想犯でなく、ただ破壊者として登場するので、それを迎え撃つのは警察官として当然の正義という構図で、観客と一体になった主人公が敵をやっつけるという王道のエンターテイメントになっていた。そしてそれが成功していた。

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     というわけで繰り返し観たくなるし、是非ともセカンドシーズンをやって欲しいと思った作品だった。楽しかったな〜。


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