とにかくマイケル・ケインが良い。まさに英国紳士といった感じの背筋のピンとした二枚目的佇まいから真っ裸でショットガンを振り回し、エロオヤジトークを繰り出し、冷酷非道なギャングぶりを見せつける。映画そのものは英国的なまったりムードの中で突如暴力が発生したり、ブルーフィルムにまつわる日常の闇が描かれるので生々しくて怖い。
他のキャラクターも魅力的で、途中ジャックを助けるキニアーの愛人グレンダ(ジェラルディン・モファット)は実写版峰不二子という感じ(ていうか『あの胸にもういちど』のマリアンヌ・フェイスフルみたいな、か)。彼女がスポーツカーにジャックを乗せて疾走するシーンと2人のベッドシーンをカットバックで見せていくところなど、やり過ぎてダサいながらもカッコ良い。僅かな出番の敵側スナイパーも淡々とした描かれ方が感情を排したプロフェッショナル感を醸しだしていて渋い。しかしスナイパーはこの人しか出てこないんだが何で邦題が『狙撃者』なのかは不明。
あとこの映画を独特のものにしているのは暴力の描き方。ジャックの繰り出す暴力は車のドアで相手の頭を挟む、裸のままショットガンで追い回す、命乞いしている相手をナイフでぶっ刺す、などいくら肉親の復讐という大義名分があっても主人公として共感を持てない酷さで、決してヒロイズムに陥らず暴力の生々しさを描いていた。今作は71年の作品で、時代としてはマカロニウエスタンなどで新しい暴力表現が生まれていたり、日本でもその後に『仁義なき戦い』か出てきたりする頃だから時流ということかも知れないが、それが英国的なまったりムードの中で繰り広げられるところに独特の世界観が生まれていた。そしてその世界観を演出するロイ・バッドの劇盤も素晴らしい。
というわけで今作は身内を殺されたギャングの復讐劇というシンプルでありがちな物語だが、今観ても十分に独特の味わいを持っていて面白かったし、若き日のマイケル・ケインの二枚目ぶりも堪能出来る作品だった。