ゴーメンガーストという現実から全く切り離された世界の構築が見事で、古くから綿々と積み上げられ続け、増殖していく石造りゴーメンガースト城という舞台と呼応するようにしつこく積み重ねられ組み上げられていく修辞技法満載の文体が初めはまどろっこしく、読み辛くもあるのだが、小説世界に没入していくにつれ段々とゴーメンガーストの時間の流れに同期していくような感覚を覚えて気持ち良くなっていく。古めかしく伝統に縛られ澱んだような時の流れる別世界への没入感でファンタジーの醍醐味を味わえた。
執事のフレイ、料理長スウェルター、ブルーンスクワラー医師、野心家のセパルクレイヴといった登場人物たち誰もが生き生きと描写されていて、善悪に分類されない個性と魅力にあふれているのも楽しい。中でもコーラとクラリスの双子姫の狂気の対話や王室の老乳母スラグ夫人とフューシャ姫のやり取りは面白くて、修辞技法だらけの地の文に加えてここら辺りの会話の妙まで楽しませてくれる訳者の技術も凄い。スラグ夫人が「お大事ちゃま」「良い子ちゃま」とフューシャ姫へ呼び掛ける台詞とか最高だった。早速続きをポチッたが最後に待ち構えるのが「未完」というのが今から怖ろしい。