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Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

いま見てはいけない デュ・モーリア傑作集 / ダフネ・デュ・モーリア著・務台夏子訳

  『赤い影』という傑出した映画はニコラス・ローグの作家性が隅々まで噴出している作品だと思っていたが、原作である本短編集の表題作『いま見てはいけない』を読むと、映画のエッセンスのほとんどがこの原作小説に初めから内在していて驚いた。当然『赤い影』ではそのエッセンスを映画として表現するニコラス・ローグの手腕が光っているのだが、ヴェネチアの美しさと古い闇が同居する幻想的な雰囲気はもちろん、時間をシャッフルして幻視される不思議な眺め、不気味な小人といった独特の道具立てに至るまで、『赤い影』で味わえる面白さがこの原作小説でも堪能出来て非常に面白かった。それに加えて映画にはない、どこかシニカルな視点も全編に漂っていて、『赤い影』とはまた違った楽しさもあった。

    そしてこの短編で得られるそうした面白さは他の収録作品にも通底していて、ほとんどの作品で日常から非日常へと移行していく仕掛けとして古い街や遺跡が登場し、それらが美しさや歴史的価値としての側面だけでなく、古きものの禍々しさを発散させて不穏なムードを漂わせていたり、全体として上品な文章で語りながらも登場人物たちの心理描写が容赦無く辛辣でシニカルであったりと、どの作品でも苦味の効いたサスペンスを存分に楽しめた。

    ちなみに他の収録作品のタイトルは『真夜中になる前に』、『ボーダーライン』、『十字架への道』、『第六の力』。どれも面白い。

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