yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

テナント 恐怖を借りた男 (1976)

     パリで空き部屋を探していたトレルコフスキー(ロマン・ポランスキー)は居住者であるシモーヌという若い女性が投身自殺を図ったために空き部屋になりそうなアパートを紹介される。重体で入院中のシモーヌの容態を伺いに病院を訪れたトレルコフスキーはそこで彼女の友人だという美女ステラ(イザベル・アジャーニ)と出会うが、シモーヌはその2人を前に何かを訴えるかのような呻き声を上げてこと切れる。シモーヌの死によってアパートへと引っ越したトレルコフスキーだったが、部屋に残るシモーヌの奇妙な痕跡、向いの窓からトレルコフスキーの部屋を見つめる人物、神経質な隣人や管理人(シェリー・ウィンタース)、家主(メルヴィン・ダグラス)たちの異様な振る舞いに次第に精神を蝕まれていく。監督、脚本ロマン・ポランスキー、脚本ジェラール・ブラッシュ、撮影スヴェン・ニクヴィスト

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     最高だった。序盤はオーソドックスなサスペンス映画のようで、パリの薄暗い風景の切り取り方や奇妙なアパートの住人たちの登場が主人公トレルコフスキーの行く末を暗示させるに充分な不安感を醸し出していて映画へ引き込まれたが、何より中盤以降、トレルコフスキーの精神状態が臨界に達してからの悪夢描写が凄かった。人間不信と疎外感から被害妄想が暴走、女装癖など秘めた変身願望や変態性が噴出していく様が怒涛のように描かれる。跳ねるボールが跳ねる生首に変化したり、現実の風景が部分的に作り物と入れ替わって違和感を増幅させたりと現実と非現実の境界を見事に描き出し、さらに悪夢から抜け出したあとも現実と悪夢を朦朧とさまよい続ける脳内地獄めぐりが延々と続く。

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    他者をいやらしく不気味に写し出す視点は、演じているのがポランスキー本人ということもあって監督自身からの世界の見え方としか思えない真に迫った描写だが、同時に突き放したような冷徹な距離感でトレルコフスキーを滑稽に描いてもいるので、自身の狂気を作品として客観的に演出する監督としての業の深ささえ垣間見せてより一層狂気の度合いが深い。

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    そして最終的にアクロバティックな円環構造で映画が閉じて永遠に終わらない悪夢仕様になっているのも何とも言えない後味を残して素晴らしかった。

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     古代エジプトの怪しげなモチーフが散りばめられて、それが入院中のシモーヌの包帯姿にミイラ男を透かし見させたりするなど本筋とは関係無くイメージの拡がりを喚起する豊かな味わいもいい。あとイザベル・アジャーニが出番の割に印象薄めの代わりにポランスキー自身の怪演が強烈だった。

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