第二次大戦下、ポーランドのアウシュビッツ=ビルケナウ収容所。同胞ユダヤ人の死体処理を行い、一定期間後に秘密保持のため抹殺されるゾンダーコマンドの役割を負わされたサウル(ルーリグ・ゲーザ)は、ある日ガス室に送られたものの一命を取り留めた少年を発見する。しかし少年はすぐにナチスの医師(ジョーテール・シャーンドル)によって処刑されてしまう。サウルはその少年が自分の息子であるとして、何とか遺体を回収してユダヤ教の教義に基づいた埋葬をしようと画策を始める。同じ頃、収容所内ではゾンダーコマンドたちによる反乱計画が進行していた。監督脚本ネメシュ・ラースロー、撮影エルデーイ・マーチャーシュ。
一人のゾンダーコマンドの視点から状況をひたすら観察するという構造自体が映画内の端々に見られる記録を残そうという行為そのものの意志を引き継いだ作りになっていて、主人公の人間的な感情を、殆ど麻痺してしまった視野のまま見せていく映像も効果的だった。同じ収容者と言えど様々な言語や階層で構築された閉塞社会を冷徹に観察していく作りはアウシュビッツの状況そのものを見せつけられるようでかなりハードだったが、この題材を扱うのであれば当然の重みであり、作り手がこちら側へ伝えようとする真摯な意志の表れと感じられた。そして僅かな希望にも見える幕切れは個人的には狂気でしか適応出来ない残酷過ぎる世界の顕在と思えてより深い絶望にすら感じられた。というわけで、当然の重みだとは言いながらやっぱり非常に重かったのだった…。