yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

クリーピー 偽りの隣人 (2016)

    刑事を辞して大学で犯罪心理学を教えることとなった高倉(西島秀俊)は妻・康子(竹内結子)と郊外の一軒家に引っ越し、言動や対応に一貫性の無い隣人・西野(香川照之)に翻弄されながらも概ね平穏な日常を過ごしていた。そんな折、元同僚の刑事・上野(東出昌大)から6年前に起きた未解決の一家失踪事件の再調査に誘われ、事件で唯一残された長女・早紀(川口春奈)からの聴き取り調査を開始する。犯罪心理への好奇心から事件にのめり込んでいく高倉だったが、康子が近所付き合いを図るため西野に接近し、彼の娘・澪(藤野涼子)とも親交を深め、段々と西野に絡め取られていることに気づかないでいた…。監督・脚本黒沢清、脚本池田千尋、撮影芦沢明子、音楽羽深由理。

 

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   豪華なキャストの布陣を見て、テレビドラマ的な映画なのかと思っていたら、映画としか言いようの無い、とんでもない作品だった。自動ドアの開閉音と漏れ聞こえる音、そよ風になびくビニール、狭い空間を回り込むカメラなど、何気無いシーンにサスペンスを感じさせる演出が随所に散りばめらていて、身近な人間同士の関係の断絶というテーマも含めて映画の端々に黒沢清印が刻まれていた。しかしそれらが突出せずにスマートなエンターテイメント映画にもなっていて、とんでもなくエグいのにエレガントでもあるという傑作だった。

 

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   その豪華なキャスト陣も、香川照之はあまりに普通に深い狂気と虚無を体現していたし、竹内結子も高倉が見ている表層的な康子と西野に取り込まれる諦観を抱えた康子を同時に表現していて凄かった。西島秀俊は「ニンゲン合格」の西島秀俊とはもはや別人の、二枚目でタフガイというイメージが良くも悪くも付いてしまっているのでどうなんだろうかと思ったが、映画が始まるとやっぱりイメージ通りの演技で不安が深まる。しかし実はその演技で作り出されるキャラクターだからこそ表層的にしか奥さんと繋がっていないことに説得力が増していたし、犯人との対決でも面白味が出るという仕掛けで、これは監督が役者の演技を見越した上での演出だったのか役者側の計算でやっていたのかどちらかは分からないが、東出昌大もいつも通りにヌボーッとした存在感がそのまま作品にハマっていたのでやはり監督の計算かな、と思った。

 

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   なので演出、役者、舞台立て全てで不穏なムードを醸成していて、映画全体に深みと現実社会をエグる鋭さが備わっていた。過剰な暴力表現などでそこへ到達しようとする昨今の流行とは一線を画した手法と完成度だったし、犯罪映画としても素晴らしかった。

 

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   特にあらゆる不穏さを溜めに溜め込んだあとの終盤が凄くて、スクリーンプロセスによる車の移動場面は、そこへ至るまでの作品に溶け込んだ黒沢節とは違って「黒沢清やってるな!」という演出なんだけど、その幻想的な絵作りがあらゆる感情を詰め込んだ疑似家族の揃い踏みの場面として映画としか言いようの無いシーンになっていた。絶望的な場面でありながら康子にとってはどこか満たされた状態でもあることに象徴されるように、乗車している者それぞれが多面的な感情を持ち寄り一塊として異様な情動を発散していて、しかも絵面だけだと幸せな家族旅行のようにすら見え、更には作り物とリアルという映画の構造すらもテーマと重ね合わせて、不気味さや不穏さ、恐怖はもちろん、何か高揚感のようなものさえ感じさせられる物凄いシーンだった。

 

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   それに続く打ち捨てられた休憩施設(?)での展開には疑似家族という設定や舞台の感じから押井守の傑作『御先祖様万々歳』を思い出したりして嬉しかったが、それはともかくここでの最後の叫びは黒沢清の過去作『叫』で込めようとした〈声にならない声〉の完成形を見た気がした。今作は映画における感情表現がネクストレベルにまで達しているんじゃないかとまで思ったが、興奮し過ぎかな。しかしそのぐらい面白かった!

 

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『クリーピー 偽りの隣人』予告編 - YouTube

 

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