イギリス鉄鋼王の令嬢でオックスフォード大学を首席で卒業したガートルード・ベル(ニコール・キッドマン)は20世紀初頭の英国人女性としての型に収まることを嫌い、単身、激動のアラビアへと渡る。そこで三等書記官ヘンリー・カドガン(ジェームズ・フランコ)や英国領事リチャード・ダウティ=ワイリー(ダミアン・ルイス)らとの恋、T.E.ロレンス(ロバート・パティンソン)などとの出会いを経験しつつ、アラビア各国を踏破し、英国人ながら中東の社会と自然とに溶け込んでいくのだった…。監督・脚本:ヴェルナー・ヘルツォーク、撮影:ペーター・ツァイトリンガー、音楽:クラウス・バデルト。
歴史大作風の外観ながら予想通りそこはあんまり興味無さげで、中東の圧倒的な自然の造形を(多分)ドローンなんかも援用してヘルツォークが嬉々として撮影した風景と、それに溶け込んだニコール・キッドマンとジェームズ・フランコの古典的な美男美女ぶりを楽しく堪能するというエレガントな映画だった。
自然描写の美しさ、特に俯瞰から迫っていく渓谷の描写など今の撮影技術だからこそ出来る映像は圧巻だったけど、だからこそ重装備の撮影機材で命懸けとしか思えない秘境探検を捉えて虚構の中にリアルなスリルが充ち満ちていたかつての作品群の狂気はあまり感じられなかった。その代わりというか古典的な美男美女として立ち振る舞わせたニコール・キッドマンとジェームズ・フランコが役柄に相応しい立ち姿を見せてくれて、優美な風景映画としてのノスタルジックな味わいも感じさせてくれた。特にジェームズ・フランコが普通にしてたらこれほど真っ当な二枚目になるというのはけっこう意外だった。