ニュージャージー州のパターソン市で暮らすバス運転手パターソン(アダム・ドライバー)は愛する妻ローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)と愛犬マーヴィン(ネリー)とともに慎ましい毎日を送っていた。町の人々の日常を見つめながらバスを運転し、帰宅して妻と過ごし、愛犬と夜の散歩へ行ってドク(バリー・シャバカ・ヘンリー)のバーで少しのアルコールを飲む。バーではエヴェレット(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)がマリー(チャステン・ハーモン)との別れ話で騒ぎを起こしたりもするが、特に大きな事件が起こるわけではない。そしてパターソンはそんな日々を詩にして秘密のノートに書き記していく。
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ、撮影監督:フレデリック・エルムズ、プロダクションデザイン:マーク・フリードバーグ、編集:アフォンソ・ゴンサルヴェス、衣装:キャサリン・ジョージ、音楽:SQÜRL、詩:ロン・パジェット。
犬も含めて役者がみんな良かった。アダム・ドライバーのおっとりとして、ぼんやりした表情が映画の雰囲気を心地良く作っていて、ゴルシフテ・ファラハニの美人なのにどこかズレてる佇まいも微笑ましかった。永瀬正敏の日本の詩人というかサラリーマンの登場も最初は唐突に思えて、しかも作品からするとちょっとエキセントリック過ぎるキャラクターに見えて違和感が強かったんだけど、観終わってから思い返すと段々と良くなって、連発するA-Ha?も脳内で繰り返される度に心地よくなっていった。
作品そのものは、羨ましくて妬ましさすら感じるほどの「普通の日々」を淡々と映し出しているようだけど、現実的には人種が溶け合い、お互いが思いやりに溢れたコミュニティというのはあり得なくて、それをジャームッシュが敢えてファンタジーとして文字通りに詩的に提示しているのが感動的だった。イラン人のゴルシフテ・ハラファニをパターソンの奥さんとして配したり、黒人をステレオタイプに描かなかったりとキャスティングやキャラクターの性格付けも意識的だし、生活空間を彩る様々な作り込みのセンスの良さでありふれた毎日が実は素晴らしいと謳うよくある胡散臭い映画に堕ちない上質さを保っていた。あと音楽の雰囲気がジャームッシュ作品に抱くイメージとは随分と変わって今時な感じだと思ったんだけど、それも本人がやっていて結構意外だった。
象徴的に繰り返し登場する双子に関しては、主人公パターソンとパターソン市という同名の人と町の物語であることや、主人公夫婦、サイドストーリーのエヴェレット&マリーなど対の関係性と繋がっているのかなと考えたりもしたけど、あんまりしっくりくる解釈は思い当たらず、ジャームッシュの意図も分からなかったんだけど、当たり前の日常の中に不思議さが入り込んでくるような効果は感じた。そこら辺もわざとらしさで嫌味を感じる事もなく、じわじわと良さが増していく映画だった。