町工場の社長殺害容疑で逮捕された工場の元従業員で殺人の前科者である三隅(役所広司)の弁護を担当することになった重盛(福山雅治)は同僚の摂津(吉田鋼太郎)、川島(満島真之介)とともに面会を重ねる。しかし犯行を自白していた三隅の供述には一貫性が無く内容も二転三転し、被害者の妻(斉藤由貴)や娘(広瀬すず)への聞き取りも逆に事件の真相を不明瞭にしていく。真実の探求ではなく裁判を戦う為の合理性を重んじてきた重盛はいつしか三隅の底知れぬ闇に引き込まれ、真実を知りたいと考え始めるのだが…。
原案・監督・脚本・編集:是枝裕和、撮影:瀧本幹也、美術監督:種田陽平、音楽:ルドヴィコ・エイナウディ。
取り調べの不可視や自白偏重を始めとした司法制度の問題点を浮き彫りにしつつも娯楽映画として飽きさせない仕掛けが随所にあって、人間はどこまで行っても他者を理解することは不可能、それを前提とした上で法治が運用されるべきだという真っ当な主張をちゃんとエンターテイメント作品として提示した是枝監督らしい真面目な映画だった。
馴染みの有名俳優の大量投入は作品を派手にする効果をもたらしつつそれぞれが流石の演技力を見せていて見応えがあった。特に福山雅治の使い方は『そして父になる』に続いてハマっていた。しかし容疑者に接見する場面で福山雅治、吉田鋼太郎、満島真之介、そしてガラス越しに役所広司と並んでいるのはテレビ的お茶の間感が凄すぎて、個人的にはもう少し新鮮な顔ぶれが見たいとは思った。
物語はミステリ的展開で引き込みつつ最終的には梯子を外して謎解きを肩透かしにすることで相互理解の幻想を露わにし、法の重要さをクローズアップさせる仕組みになっていて、他人のことは分からないという身もふたもない現実を提示しながらもシニカルにならない姿勢でそれを描く手腕は是枝監督ならではだった。ミステリ的展開に興味が向かい過ぎてテーマが見えづらい気もしたけど、逆にこちら側を信用して映画を作ってくれている感じもした。あと、楽しみにしてた広瀬すず以上に検事役の市川実日子が良かった。