現実とは全く異質に思える作品世界を構築して、その世界で大叙事詩を紡ぐ圧巻の小説だった。前半は独特の用語と世界観に難儀する部分もあるが(しかし、作者自身によって挿入された流麗なイラストレーションが想像力を多分に補ってくれる)、祖国を追放された流れ者が義兄弟とともに変わり果てた故郷に戻り、かつてのしがらみと新しい使命の間で苦悶する任侠映画的なプロットや、登場する異種族キャラクターが昆虫を連想させる造形なので、現実から遠く離れた世界を堪能しながらも脳内で現実と解離しすぎずに読み進められる。と同時に物語の構造自体が先へ進むほどに人間世界に近づいていく構造になっていて、作品の異形ぶりが薄れていくことで当初の非現実感にノスタルジーすら喚起される仕組みも新鮮。現実を超える妄想力をSFとして具現化した傑作だった。