『未来世紀ブラジル』〜『12モンキーズ』に連なると言っていいテリー・ギリアムのデストピア物だったが、鑑賞後の興奮度は順々に下がって来ているという感じで、ギリアム印の面白味はあって、つまらなくは無いけど全体の味は薄まっているという印象が残った。
まず、主題歌は『クリープ』(のカバー)が使われていて、曲自体は当然名曲なんだが、ほとんど捻りなく主人公の心情に寄り添う選曲なので、『未来世紀ブラジル』での『ブラジル』、『12モンキーズ』での『この素晴らしき世界』のような、皮肉を伴ったチョイスとは全く異なるアプローチ。それが今作の毒の薄さを象徴しているようにも感じられてしまった。
描かれている舞台の未来都市は今までになくカラフルで、CGを多用しつつもちゃんとギリアムの世界が立ち上がっていたが、細かな汚れ具合で出てくる味が薄いことやスマホを始めとする今時の最新電子機器とギリアムの造り出すガジェットの組み合わせの悪さで今ひとつ物足りなく感じた。
その舞台の中で主人公コーエンは巨大企業に従事していて、『未来世紀ブラジル』での国家が企業に、官吏が会社員に移行したような作りでどちらも主人公が受動的に使役される状況だが、今作はあくまで私企業の従業員なのである程度の自由意志が存在しているように見える。上司(デヴィッド・シューリス)も別に支配的な存在ではない。しかしそんな緩やかな縛りの中で結局コーエンは利用され搾取されていくという国家による支配ではない資本による支配を描いているのが今作の特徴と言えるが、その抑圧の弱さが物語としての刺激の弱さにもなっていたと思う。しかも物語自体がほとんどコーエンの自室で進行していくのでクリストフ・ヴァルツの顔面以外は変化に乏しく、少し眠かった。
役者に関して。メラニー・ティエリーはテリー・ギリアムの妄想を見事に具現化していて、今までの作品のヒロイン同様映画に彩りとせつなさを与える役割を全うしてくれていた。デヴィッド・シューリスもいかにもギリアム作品の小役人キャラという感じで良かった。クリストフ・ヴァルツは怪演と言っていいレベルで他の作品とも全く違う、この映画のコーエンという人物に成り切っていたが、このキャラクターが強烈な個性を持っていることで本作が世界を描いているというよりはコーエンという個人を描いた物語に見えてしまい、作品の物足りなさにも繋がっていたのは難しいところか。
と、適当に書いていたらダメ出しのような文章になってしまった。しかし強烈な存在感のコーエンが資本家の思惑によって振り回される中、運命のヒロインが登場してケバケバしい世界から脳内の理想郷へと逃走していく筋立て、鳴るはずのない神様からの電話を待つというおかしな状況、それら全てがテリー・ギリアム的SFとして堪能出来るので、過剰な期待がなければ十分楽しい作品だ、というのは書いとかないとな…。