〈行って帰る〉という極めてシンプルな物語を台詞一切無しにアードマン・アニメーションズの恐ろしくハイクオリティなコマ撮りアニメの力で一本の劇映画に仕上げてしまっているという、凄い作品だった。テレビで馴染みのショーンたちはもちろん、悪役のトランパーに至るまで、まさに人形にアニマを込める卓越した技術、演出が光る。今作では極悪なトランパーの間抜けぶりが笑いに転じる箇所も多いが、それも初登場のトランパーにまでキャラクターとしてちゃんと生命が宿り躍動しているからこそ笑えるのだった。
なので子供達にとってはショーンをはじめとするキャラクターたちの一挙手一投足を見ているだけでも十分面白いだろうし、大人にはそれに加えてカセットテープから流れる曲(AshのTim Wheelerがやってる!)がショーンたちと牧場主の思い出の装置として機能していて、子供映画を観にきてノスタルジィにも浸れるという憎い仕掛けも用意されていた。
ちなみにティム・ウィーラーが物語の鍵となる曲を歌っていたり、プライマルのロックスがかかったり、UKロック好きにも嬉しい曲使いはさすが英国映画。もちろんメインはいつものテーマ曲なので、映画だからといって感触が変わっているということにはなっていないのも良い。
『ウォレスとグルミット』同様に過去作品へのオマージュを散りばめたり(こちらはニック・パークのようにジャンルそのものへのオマージュというよりは作品に対するパロディという志向だが)、細かい道具類まで行き届いた気配り、製作過程を考えるとクラクラするほどアクロバティック&スピーディなアクションシーンなど見所盛り沢山で、シンプルなプロットに映画的醍醐味を詰め込む感覚は『マッド・マックス 怒りのデスロード』と共鳴していた。そして物語としても綺麗に着地している、ということだけでなく、続けられる限り続く日常という大前提を維持したまま、少しだけ上向きな気持ちで元の地点へ戻ってくるという点で、シリーズ物の映画版としても理想的な作品だった。