yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

ヴィジット (2015)

     姉ベッカ(オリビア・デヨング)と弟タイラー(エド・オクセンボールド)の姉弟は初めて出会う祖父母と1週間を過ごす為にペンシルバニア州メインビルへとやって来た。かつて姉弟の母(キャサリン・ハーン)は駆け落ち同然で恋人とこの地を去り、それからは1度も親子の交流がなかったのだが、祖父母が孫と過ごしたい思いからベッカとタイラーを実家へと招待したのだった。優しい祖父(ピーター・マクロビー)と明るく料理好きの祖母(ディアナ・デュナガン)は2人を歓待し、ベッカはタイラーに協力させて、母と祖父母の和解と、去っていった父へ複雑な思いを整理する為に家族のドキュメンタリーを撮影しながら田舎での休暇を過ごし始める。しかし夜を迎え、静まり返った祖父母の家には不気味な物音が響き渡り、異様な気配が漂い始めるのだった…。監督脚本M・ナイト・シャマラン、撮影マリス・アルベルチ。

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    シャマランの新作…。シャマラン作品に対してはやや半笑い気味に楽しんでいたぐらいのスタンスで、異様にシャマランを持ち上げる人がいることにかなり首を傾げつつ、一応『ヴィレッジ』迄は劇場で追いかけてはいたが、その後の作品は観る気も失せていた。しかし今作はちょっと違った。ていうか傑作だった!

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    今までの作品でも中盤まではミステリアスで趣きのある部分を感じることはあったが、それらが結局どうでもいいドンデン返しに奉仕する為の演出に見えて、最終的に安っぽさの中に埋没してしまっているように思えたが、今作では所謂ドンデン返しのネタは予め予測出来るもので、観客と物語がその秘密を共有しつつ映画を進行していくことであらゆる細部が非常に恐ろしいという仕掛けになっていた。なのでそのネタが明かされることがパンドラの匣を開けてしまうことなのだと分かった上でそれを待ち構え続ける恐怖が半端なかった。そして「月曜日の朝」、「火曜日の朝」と赤文字のテロップで画面に示していく作りが、張り詰めた緊張感の臨界点へ向かうことと、そこからの解放までの両方のカウントダウンとして観ているこちら側の情感を高揚させて、サスペンスの味わいを高める効果を上げていた。

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    主人公の姉弟も抜群に良かった。これは個人的に我が家の子供たちと同じ姉弟構成ということもあって他人事として見られなかったのだけど、それがなくても子供の愚かさと賢さ両方を兼ね備えたキャラクターとして見事に演出されていて、それだけで心を鷲掴みにされた。そして今やマンネリ感すらある主観映像の組み合わせで映画が作られているのだけど、それが2人の子供目線のリアリティとして存分に効果を発揮して恐怖を倍増させつつ、映像としても非常にエレガントで美しい画面に不自然さなく仕上がっていた。更にはこの子供達が自分自身で逐一動画を撮影しているということがこのあとネタバレで書く部分にも効果を上げていた。

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    というわけで以下ネタバレ。

    自分と全く異質な思考回路の人間や老人への恐怖という根源的な怖さを主観映像によるショッキング描写と掛け合わせて増幅させた演出はたまらなく怖くて、しかし同時に寒々しい田舎の風景を映し出した詩的に美しい映像や姉弟の家族の修復を切望する儚い願い、老夫婦の純愛(!)という登場人物たちの心情とに心揺さぶられて、恐怖と感動の双方から涙目になった。しかも恐怖は笑いと紙一重の絶妙なバランスの上に成立していて、軒下で姉弟を追いかけまわしたあとに半分尻を出して立ち去っていく祖母や汚れたオムツ攻撃をかましてくる祖父など、ギャグスレスレながら常軌を逸して怖すぎるという凄い世界に突入していた。

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    そしてそれを成立させている祖父母のキャラクターが凄い。どう考えても恐ろしい人間なのに視点を変えると祖父の価値観においてはひたすら純愛に見えるという形になっていて、この2人の人生に映画以前の強烈な物語が存在していると思わせる深みがあった。痴呆と精神疾患をホラーという形で見せるという現代では倫理的にギリギリのところを扱いながら映画として成立させたシャマランの演出、ストーリーテリングの妙とチャレンジ精神に今まで半笑いで観てきたことを反省した。

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    それから事件が終わったあとのエピローグについて。まず事件を動画で全記録していることによって子供達が法的に(多分)裁かれないだろうという安心感があって、さらにタイラーの、小さな男の子の愛すべきバカっぽさを増幅させるラップで2人が精神的に事件を乗り越えていることを示してくれて非常に清々しい幕切れになっていた。ホラー映画なのだからそこまでする必要は無いのにちゃんと子供達のケアをして映画を終わらせていたのは凄く気持ちが良く、内容は凄まじい恐怖に満ちているのに加害者被害者含めて家族を希求する物語としても感動させるという地点まで到達していた。今作はいい意味でシャマランに裏切られた傑作だった。

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