ヒロインは成功した女性、相棒は悠々自適のリタイア組老人、それぞれに当然悩みは抱えてはいるが基本的に余裕のある人達の贅沢な悩みなので、どうでもいいと言えばかなりどうでもいいストーリー。それだけに出でくるキャラクターはほぼ全員善人で嫌な感じは無いし、演出は丁寧でテンポも良く、なによりアン・ハサウェイが可愛いので楽しく観られた。ジュールズと母親とのエピソードを切ってもう少しコンパクトな尺にしてくれたらちょうどよかったかな。
気になるところもあった。女性が家庭を持ちながら仕事を生き甲斐としてやっていくことを肯定的にエンターテイメントとして提示するのは基本的に正しいとは思うものの、これまで、家庭を顧みずに仕事を優先するモーレツ社員の夫が反省してマイホームパパ化するというような作品が1つの定型としてあったことを考えると、この映画で描かれたような物語の行き着く先が単に今までの社会の有り様を男女逆転させただけというようなことなら虚しい気もした。しかし取り敢えずは不平等を是正するところから始めざるを得ないというのはあるのかも知れないが。老人の存在が極端に理想化されていたり、その爺さんの恋愛対象が結局(爺さんから見れば)若い女性(レネ・ルッソ)というような部分も社会的に正しい見解を披露するという映画の文脈からは違和感があった。
あと今作でのロバート・デ・ニーロは超越的善人キャラで、心底信用に足るような笑顔と優しい眼差しの演技がさすがなんだけど、劇中、トラヴィスばりに鏡に向かって表情の練習をさせたり、アル・カポネのようにカミソリを当ててるシーンを入れたりしているのもあって、どうしてもこれまでデ・ニーロが演じてきたキャラクターが頭に浮かんでしまい、いくら善人を演じていても、いつ豹変してその暴力性が剥き出しにされるのかとドキドキして怖かったよ。