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Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

タイタス・アローン / マーヴィン・ピーク著・浅羽莢子訳

前々作の感想↓

タイタス・グローン / マーヴィン・ピーク著・浅羽莢子訳 - ゆづログ

前作の感想↓


    あわわわ、どうなってるんだ!と、読み始めてすぐに頭が混乱状態になった。前2作で圧倒的な幻想世界を完成させたあとでその全てを否定してしまうかのようなSF世界の登場。古めかしいファンタジー世界ゴーメンガーストから冷たい科学が支配し、人間的なものが地下世界へと押し込められた世界へと突き放された主人公のタイタス同様こちら側(読者)も蜃気楼のように世界の背後に揺らめきながら姿を見せないゴーメンガーストを感じつつ彷徨い続けるというとんでもない作品だった。

   まず前作と関係のない新たなSF物語として面白かった。登場してくるSF的な道具立てはメタリックの宙に浮かぶ球体の追跡装置など手塚治虫の漫画に出てくるような懐かしの装置類で楽しいが、貧富の格差や監視社会といったものが描かれた物語世界の有り様は全く古びた感じがない。そして新たに登場するアウトサイダーのマズルハッチやその元恋人ジュノーなどキャラクターの魅力が今作でも炸裂していた。

    そして第一部ではフューシャの恋愛やガードルードとセパルクレイヴの恋愛感情を超越した夫婦関係、第二部ではタイタスの憧憬と初恋やベルグローヴとイルマの熟年夫婦の恋愛模様を描いてきて、実は作品の中で恋愛の描かれる比重はこれまでもかなり高かったが、この第三部ではタイタスの恋愛がそのまま物語の推進力として描かれていて、より一層物語の中心となっていた。昔は若く絶世の美女として君臨した女性ジュノーが中年として恋を患う感情の複雑さや、そのジュノーとかつて熱烈な恋に落ちていたマズルハッチが時を経てその愛を見つめ直す描写、タイタスの若さゆえの熱情と愛から逃避する心理、チータァの承認要求が届かないことで愛情から憎悪へと変容していく姿など様々な感情の機微が深く掘り下げられていて、恋愛小説のようにも楽しめた。

    しかし何よりも凄いのは主人公と読者をともにゴーメンガーストから隔たらせることによって、逆にファンタジーとしてのゴーメンガースト世界を絶対的な領域へと位置付けてしまう小説の構造だった。ゴーメンガーストを心に抱いたまま今作の科学文明社会を冒険していくと、前作までの血生臭い陰謀や喪失も全て懐かしく愛おしくなってくる。そして物語に現れず、見えもしないことがゴーメンガーストを誰も触れることの出来ない孤高の存在、心の中にのみ存在する神聖な故郷に押し上げて、前二作をより圧倒的なファンタジーとして完成させていた。

    それだけに終盤、チータァがタイタスに対してゴーメンガーストを愚弄する罠を仕掛ける場面が、タイタスと読者への冒涜として強烈に作用してくるし、その所業が物語を心に持つ者、見えない世界を持っている者への嫉妬のようにも感じられ、それが虚構と現実の争いのように読めて面白い。そして最終的にチータァの策略が人間的なマズルハッチたちによって阻まれ、タイタスが幻想と虚構の世界であるゴーメンガーストを自らの確かな一部として受け止め確信することで荒涼たる現実へと踏み出していくくだりは、フィクションを拠り所として現実を生きていくことを肯定的に謳い上げた感動的なフィナーレだった。

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