冒頭、飄々とした松山ケンイチの佇まいに紛れもなく『の・ようなもの』の雰囲気を感じさせられたところで伊藤克信のシントト登場、ナゼかそれだけで涙が出てきた。前作から引き続きで登場の役者陣はそれぞれのキャラクターが実際の35年を経てきたように感じられるほどに違和感無くスクリーンに登場してきていて、演技演出双方が作品の世界観を見事に引き継いでいた。そして冒頭からスンナリとシントトと並んでみせた松山ケンイチはもちろん、もう一人の新キャラクター、夕美を演じる北川景子も作品のムードを壊さぬままに物語を牽引するヒロインを作り上げていて良かった。北川景子は演じる作品ごとにイメージがまるで違っていて凄いよな…、と改めて思ったりもした。
中盤、シントト捜索の為の聞き込みシーンでは森田作品ゆかりの役者たちの顔見せシーンがしつこく続いて、ここは要らんかな〜という気持ちも湧いたが、それも愛ゆえと思えば悪くないし、宮川一朗太が出てきたりするとやはりテンション上がった。そしてそれと前後して映し出される東京の風景で味わえる見たことがないのに懐かしいというような感覚も『の・ようなもの』のエッセンスを継承していた。
あと中期以降の森田作品はあんまり観ていないけど、今作には森田芳光の過去作へのオマージュが(多分)随所に入れ込んであって、観ていると中期以降の作品もちゃんと観なきゃな〜、というか観たいな、という気分になってきたので、リスペクト映画としても成功していると思った。さらに今作は単に過去作をなぞったノスタルジーでなく、ちゃんと現代的な映画になっていて、『の・ようなもの』でモラトリアムの居心地の良さと、やがてやって来る現実の苦さの予感を描いていたのに対し、今作ではそれへのアンサーとして猶予期間を経ての生き様を老け切った伊藤克信の姿を使って見せていて、ちゃんと今の時代に続編をやる意味を持たせた真摯な作りになっているのが感動的だった。