産業が衰退し、寂れ果てたデトロイト。幼い妹を連れて町を脱出する為の資金を得たいロッキー(ジェーン・レヴィ)と、彼女に想いを寄せるアレックス(ディラン・ミネット)、ロッキーの恋人マネー(ダニエル・ゾヴァット)の3人は現金を狙わないポリシーで盗難を繰り返していた。しかし娘を交通事故で亡くして得た巨額の示談金を持つという退役軍人で一人暮らしの盲目の老人(スティーヴン・ラング)の情報を得た彼らはそのポリシーを捨ててこれを最後の犯罪にする覚悟でその老人の家に侵入する。しかしその老人は彼らの想像を超えた恐るべき人物であった…。監督:フェデ・アルバレス、脚本:ロド・サヤゲス、撮影:ペドロ・ルケ、プロダクション・デザイナー:ナーマン・マーシャル、音楽:ロケ・バニョス、製作:サム・ライミ。
じわじわと狭い屋内を見せて恐怖を煽るのではなく、そこに何かがあったら怖いと思わせつつもそこに何が写り込んでいるのか目を凝らさざるを得ないように縦横無尽に途切れることなく屋内を移動し続け、同時に間取りやこれから邸内で活躍するであろう小道具まで紹介していくカメラが凄いし怖かった。
ラストベルトに位置するデトロイトの風景、貧困、子供へのネゴレクト、帰還兵のPTSDと時代背景を取り入れた設定で現実味を増加させているのも効いていた。別に社会的意識が高いから偉いという話でなく、時代背景を取り入れることで物語のバックボーンにリアリティを与え、あり得ない状況に真実味を増加させて、より恐怖を感じさせてくれているという意味で。ポリティカル・コネクトネス的に言えば盲目のおじさんの顔面を恐怖の対象にしている時点でアウトだけど。
物語の岐路には主人公たちの選択によって運命が決定されていく場面が用意されていて、非道い話ながら欲が破滅へと導いていく道徳的な展開になっているのも映画に普遍性を与えていた。
何よりも秀逸だったのは盲目のおじさんを演じるスティーヴン・ラングの筋肉のつき方、顔面の造作、動き方がことごとく役にハマっていたことかも。同情を感じさせる境遇にありながら見ているうちにそういった人間的情感から断絶された狂気の世界へと観客を牽引していく強烈さを見事に体現した狂いっぷりだった。それもあって盲目のおじさん(+犬)だけなのにちゃんと怖い映画に仕上がっていて存分に楽しませてもらえた。