yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

夜明け告げるルーのうた (2017・日)

   両親の離婚によって父(鈴村健一)とともに東京から漁港の田舎町・日無町で舟屋と傘作りを営む祖父(柄本明)の元へやってきた中学3年生のカイ(下田翔大)は両親への複雑な気持ちを口に出来ぬまま鬱屈した毎日を送っていた。そんなある日、独りで密かに大好きな音楽を制作していたカイのもとに、その音楽に誘われるように人魚の少女ルー(谷花音)がやってくる。島の伝承では人魚は害を為す存在とされていたが、天真爛漫な彼女との交流の中でカイは少しずつ心を開いていく。クラスメイトの国夫(斉藤壮馬)と遊歩(寿美菜子)のバンド「セイレーン」にも参加するようなったカイとルーだったが「セイレーン」で一緒に歌い踊るルーの存在は遊歩の祖父で町の唯一の産業を牛耳るえびな水産の会長(菅生隆之)の目にもとまり、会長たちはルーを町おこしに使おうと画策を始める。しかし人魚が厄災をもたらす存在と信じる町の人々との軋轢から町は混乱し、カイたちもそれに巻き込まれていくのだった…。

監督、脚本:湯浅政明、脚本:吉田玲子、キャラクターデザイン原案:ねむようこ、キャラクターデザイン、作画監督:伊藤伸高、フラッシュアニメーションチーフ:アベル・ゴンゴラ、ホカンマヌエル・ラグナ、美術監督:大野広司、音楽:村松崇継、アニメーション制作:サイエンスSARU。

 

f:id:yudutarou:20170606174021j:image


   アニメーションとしての動きを見ているだけで凄く楽しくて、特にルーや人魚犬の動きは気持ち良く、湯浅作品ならではのオリジナリティが炸裂していて素晴らしかった。それだけに動機付けが曖昧なままに進んでいく物語、時折挿入される監督の持ち味のサイケデリック場面での躁状態と作品のトーンとの齟齬、既存曲を主題歌に据えてること、先行作品とダブってしまったイメージなどが勿体無く思えてもしまった。

 

f:id:yudutarou:20170606174104j:image


    何のために何をやってるのか、何を救っているのか、など物語を推進させる動機そのものが曖昧で、クライマックスも盛り上げる為に盛り上げているようにしか思えなかった。人魚たちはどうしてそこまで捨て身で人間を救うのか理解出来ないし、むしろルーのパパ(篠原信一)とか人間皆殺しスイッチ入ってもおかしくないだろうと思ったが。単にピュアな奴らということなのか?

 

f:id:yudutarou:20170606174117j:image 


    細かな部分では若い頃に旦那が人魚に殺されたと思い込み、ずっと人魚への恨みを糧に生きてきた老婆(青山穣)が、実は人魚に救われて自身も人魚となって生きていた旦那に迎えにこられて、「何で今頃〜」みたいなことを言っていたが、ほんとにその通りで、彼女は何十年と復讐と恨みだけに人生を捧げてきて、それが人生の最後になって全くの誤解だったと知らされ、そこでいくら自分もこれから人魚と化して永遠を生きることになるのだとしても、愛した男は昔のままの美男子で自分はヨボヨボの姿、しかも精神は荒廃しきっているという状態で共に永遠を生きるのってかなり残酷な話だと思うんだが。旦那は彼女を迎えに来るならもっと早く現れるべきだし、ここまで放置してたなら彼女の信念のままに人生を全うさせてやれよと思った。遊歩にしても都会に憧れるだけでなく、現実に今やれることをちゃんとやれるようにさせるという意図でのことだと思うが、クライマックスで人助けをすると言って避難のための町内放送をやりだして、それが成長譚のように描かれていたのだけど、それが遊歩がやるべきことなのか、放送はちゃんと慣れた先輩がやってるんだから遊歩のやるべきことは権力者の娘として暴走した身内を何とかするとか色々あるんじゃないのか、と思った。そんな感じで脇のキャラクターたちのストーリーをちゃんと回収してあげようとするあまり、色々と余計なお世話になってしまっていて、結局ストーリーのピントがぼやけているように感じた。

 

f:id:yudutarou:20170606174136j:image


    それと祭りで主人公たちのバンド演奏でルーが楽しく踊っていたら、実際に音を鳴らしていたのは雇われたおっさんたちだったという件、そこでルーはぎゃーとなって、こんな音にノれるかってなるんだけど、演奏してるのが誰であれ、音楽にヴァイブスがあったから踊ってたんじゃないの?と思った。ショックを受けた、というのは理解出来るんだけど。 

 

f:id:yudutarou:20170606174158j:image


    あと主題歌に既存の有名な楽曲を持って来たのは何でかな、と思った。既存の曲だとテーマに合致していることよりもこれまで消費されてきたイメージの方が先行してしまう。どうせなら制作協力に名前がクレジットされてたオオルタイチに渾身のポップソングを依頼すれば『君の名は。』のRADWIMPSみたいになったかも知れないのに、と思った。

 

f:id:yudutarou:20170606174216j:image


    それとこれは意図しないでだろうし、良くない訳でもなく、制作時期が被っているというのもあるんだろうけど、観ていて色々と既視感があった。人面魚的な可愛い女の子に手足が生えてくるというルーのキャラクターはデザインも含めてポニョを想起してしまうし、町内放送を多用する件は『君の名は。』が思い浮かぶ。あとこれは予告で観ただけだけど、ルーが魔術的に海水を操る際の水の表現は『モアナ』と被ってしまっていた。

 

f:id:yudutarou:20170606174233j:image


    その町内放送の部分など災害に対処する描写の比重がかなり大きくて、それも作品のバランスを崩していたように感じた。そのことは現実の災害を踏まえた上で人々が連携して避難を行なっていく段取りの重要性を反映させようという真面目さから来ているのかな。

 

f:id:yudutarou:20170606174246j:image


    などと色々気になったことをあげてしまったけど、長編初だという全編フラッシュアニメーションによる動きの表現、ルーや犬人魚たちの愛らしさを見ているだけで凄く楽しかったし、気になった部分も作品全体の雰囲気を損ねるものではなく、好きな映画だと思えたからこそ気になったという感じで、もっとああして欲しい、こうして欲しいという妄想が思わず膨らんでしまったのだった。

 

f:id:yudutarou:20170606174303j:image

 

『夜明け告げるルーのうた』予告映像 - YouTube

 

f:id:yudutarou:20170606174355j:image