タイトルと装丁から普通に吸血鬼小説だろうと思いつつ読み始めたら、「吸血鬼」という表題は政治における搾取する側、される側、アートにおける作り手と受け手の関係性など、社会における様々な事象のメタファーとして掲げられていて、幼稚な期待感は悉く肩透かしを食らってしまった。しかしそこに押し付けがましいメッセージの打ち出しは無く、どのようにも読める間口の広さと、文章の優美さに予測とは異なる魅力と面白さを味わい、さらに『狼男アメリカン』調な主人公の旧友(と思われる)の幽霊のくだりなど、ちゃんとホラーとしても読むことが出来て、結局期待以上に楽しかった。