主人公が社会の暗部に入り込むほどに陰謀論と真偽不確かな情報に翻弄されていく様は今の政治、社会状況にあまりにジャストで、おまけ的に収録の短編『殺すも生かすもウィーンでは』も頻発する銃乱射事件を予見したような内容というのもあって、色褪せない新鮮な読み心地だった。
それはいつ読んでも同様にリアルに感じられる普遍的なテーマを扱っているということもあるだろうけど、60年代の風俗とその時代ならではの思考回路のキャラクターの面白味、それらを使った物語同様に迷路状に入り組んだ構成によって古びることのない魅力を感じさせてくれた。
さらに訳者の解注と題された注釈がかなり細かくて、小説の迷路状態にますます奥行きと訳わからなさを加味してくれていて、得した気分も味わえた。