どのショートショートを読んでも星新一的だと感じさせるオリジナリティを持つ作品群に比べて、星新一自身に対するイメージは、筒井康隆の日記やエッセイに登場する人物像で輪郭を描いていたぐらい(それでも小松左京らの濃さに比べると圧倒的に印象が薄い)だったので、星新一自身の人生を数多の資料と証言によって丁寧かつ詳細に構築した本書はこちらの興味を満たしてくれる読み物として面白かった。なかでも作家デビューに至るまでの星家に関わる人々の歴史上の著名人ぶりが凄すぎて、SF作家の伝記というより政治家や企業家の伝記という印象。デビュー前になってSF関係者が登場してくる段になり、やっとSF作家の物語っぽくなってきてホッとする。
そして出自や功績など事細かに追跡した力作であるのに読了後に星新一がどうして唯一無比のオリジナリティと面白さを持つ作品群を生み出し得たのか、というのは結局よく分からず、作品と作者のイメージがイコールでは繋がらない掴みどころのなさがそれこそ星新一らしいな、という印象を残した。しかし今また星新一作品を読み返すと新たな印象が浮かんでくるかも知れないとも思えた。