吹き荒ぶ雪原で「殺しが静かにやってくる」的西部劇が展開されるかと思いきや「遊星からの物体X」みたいなことになっていく、いつも通りにジャンルを軽々と飛び越えてしまう感覚が楽しかったが、会話劇はより洗練されていたし、タランティーノ組総登場もあって、より進化したタランティーノ映画という趣きも感じた。
で、あまり西部劇という印象は無かったのだけど、モリコーネの劇伴で男声コーラスが入ってきた瞬間には西部劇感が押し寄せてきて、ぬおーっと盛り上がった。
密室ミステリーという宣伝文句で、そういうものとしては反則気味なプロットだと思ったが、冒頭クレジットで種明かしというか伏線を張ってるということでセーフなのかな。
デイジーに対するDV臭満載の振る舞いや幕切れの不快さなどモラル的にはちょっと引いたが、タランティーノは映画内世界の構築さえ出来ていればあとは多分どうでもいいというネジが外れた人間だから仕方ないかな、ぐらいにも思った。デイジーの過去の所業は明らかにされていないものの劇中での行為で十分に罰せられるに値すると見ることも出来るし、幕切れに関しては結局誰も赦しの境地には達していないという現代的な提示と思えないこともない、というのもあった。
あと日本では70㎜での上映を観ることができないというのがあって、確かにオリジナル版で観たいというのはあったけど、作品自体が特別なフィルムを必要としたというよりは、単にやってみたいとか箔を付けたいという部分がデカイのではないかとも思えるので、まあ別に今回のバージョンでもいいかなという気もした。タランティーノ自身がビデオで名作観まくってた世代だし。