yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

Joey Bada$$ / All-amerikkkan Badass

    アラーキーか南部ちゃんみたいな見た目の人が二枚目風にラップしてるMVのインパクトで思わず購入したけど超有名なメジャーアーティストだった…。一聴して超スムースで気持ち良い感じだったのだけど、アルバムでもそこは通底しつつ実はけっこうシリアス。後半、客演が入りつつトーンが重くなるのもアクセントになっていて良かった。

 

Joey Bada$$ - "Land of the Free" (Official Music Video) - YouTube

Joey Bada$$ - "Devastated" (Official Music Video) - YouTube

 

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発売日 2017/5/5

 

収録楽曲
1.GOOD MORNING AMERIKKKA
2.FOR MY PEOPLE
3.TEMPTATION
4.LAND OF THE FREE
5.DEVASTATED
6.Y U DON’T LOVE ME? (MISS AMERIKKKA)
7.ROCKABYE BABY (feat. ScHoolboy Q)
8.RING THE ALARM (feat. Nyck Caution, Kirk Knight & Meechy Darko of Flatbush Zombies)
9.SUPER PREDATOR (feat. Styles P)
10.BABYLON (feat. Chronixx)
11.LEGENDARY (feat. J. Cole)
12.AMERIKKKAN IDOL

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー リミックス (2017・米)

   半分地球人でスター・ロードを自称するピーター・クイル(クリス・プラット)、悪の帝王サノスの養女で元暗殺者のガモーラ(ゾーイ・サルダナ)、研究室生まれのサイバネティク動物ロケット(声:ブラッドリー・クーパー)、比喩を理解出来ない怪力男ドラッグス(デイヴ・バウティスタ)、樹木型ヒューマノイドで今は再生中で幼児になってしまった樹木型異星人グルート(声:ヴィン・ディーゼル)。ならず者から銀河の守護者となった彼ら5人だったが、警備を引き受けた惑星から盗みを働いて逃亡するはめになるなど、相変わらずの日々を過ごしていた。そんな中、ピーターの父親を名乗る謎の男エゴ(カート・ラッセル)が現れ、一行を自らの惑星に誘う。そしてピーターの育ての親で、ならず者集団ラヴェジャーズの艦長ヨンドゥ(マイケル・ルーカー)やガモーラの義妹ネビュラ(カレン・ギラン)、惑星ソヴリンの指導者アイーシャエリザベス・デビッキ)らもピーターたちを執拗に追い、銀河系を巻き込んだガーディアンズ,オブ・ギャラクシーの冒険が再び始まる。

監督・脚本:ジェームズ・ガン、製作:ケヴィン・ファイギ、撮影:ヘンリー・ブラバム、プロダクションデザイナー:スコット・チャンブリス、編集:フレッド・ラスキン、クイレグ・ウッド、視覚効果監修:クリストファー・タウンゼント、音楽:タイラー・ベイツ

 

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    言うことない傑作(書くけど)。オープニングから宇宙で巨大生物とじゃれ合いながら戦うガーディアンズメンバーと踊るグルードという掴みバッチリの映像の中、戦い方と会話でキャラクター紹介をこなしていきつつ、戦闘シーン自体のアイデアも豊富に放り込んでくるという気合いの入れ方で素晴らしかった。その戦闘シーン、外皮の厚い巨大な敵に対して敢えて内部に入り込んでやっつけるという一寸法師の時代から続いてきたパターンをドラックスがやってみたら皮の厚さは内側も同様に硬かったというオチでルーチンを崩してみせる展開かおかしいし、宇宙で剣を振るって戦うというアホらしさをガモーラの自覚とともに見せながらも結局剣で戦わせて外連味溢れる絵面を提示してくれるサービス精神も嬉しかった。

 

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    そして金ピカの宇宙人が平気で動き回っていても、映画世界ではちゃんとリアルなキャラクターとして息づいていて、馬鹿馬鹿しくても白々しくない絶妙なバランスでスペースオペラを今の時代に提示してみせたジェームズ・ガンのセンスを改めて凄いと思った。その金ピカ宇宙人(ソヴリン星人)が無人戦闘機を操るための装置はアーケードゲームの筐体を模していて、その装置を操るパイロットの周りに群がって勝手なこと言いながら見物する金ピカ宇宙人達をゲーマーとギャラリーに見立てる場面を、色んなシチュエーションでしつこくやってたりとかバカ過ぎて面白かったし、そういう遊び心が随所にあるのも楽しかった。

 

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    家族は大事という繰り返されてきたお題目を血縁に基づいた家族の定義自体を更新しつつ今様に提示したストーリーもスマートで気持ち良かったし、ピーターの父親の謎というひょっとしたらシリーズを長々と引っ張る要素にもなり得るエピソードを一作品の中であっさりと消化しきっているのも潔かった。血統、出自の正当性、スーパーパワーの否定は『スター・ウォーズ』に対するガーディアンズからのメッセージとも取れるし、ひょっとしたら同じマーベルヒーロー達へのアンチテーゼにもなり得るかなり踏み込んだ内容だと思った。

 

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    他にもヨンドゥとロケットのコンビによる掛け合いが楽しいと同時にはぐれ者同士の共感が感動的だったり、ガモーラとネビュラの度を超えた姉妹喧嘩とか(ここで戦闘機搭載の火器を抱えてぶっ放すガモーラの姿に改めてただの常識人じゃないことを思い起こさせてくれる)、ヨンドゥの部下のクラグリン(ショーン・ガン)がいい味出してたりとか楽しいポイントは枚挙にいとまがないんだけど、クライマックスでピーターが仲間たちとの楽しかった場面を思い出すシーンでは涙ボロボロ出てきた。ロケットと青空を飛ぶ姿に仲間たちのかけがえの無さを、幼いピーターに射撃を教えるヨンドゥとの場面に真の父子の絆の深さを、という具合にほんの短いシーンから映画キャラクターの感情の中へ深く入り込んでいく感覚があって、また『スター・ウォーズ』を引き合いに出すのもなんだけど、育ての親とかはぐれ者チームを描きながら、そこへの共感を表現しきれなかった『ローグワン』と対照的だな〜と思わされた。

 

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    場面ごとにこれでもかと阿呆で素敵なアイデアを詰め込んで、音楽も相変わらず最高で、そしてやっぱり泣かせてくれて、観終わってもまだまだ足りない、ずっと観ていたいと思わせてくれた作品だった。あの人が欠けてしまったのは寂し過ぎるが、スタローンとか頑張ってくれるだろうし、これからも色んな冒険を描き続けて欲しい。ちなみに娘と4DX版も鑑賞して、娘も面白がってくれて良かったんだけど、個人的にはアトラクション的な楽しみは映画自体を堪能するのには邪魔かな、と思った。

 

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「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」本予告 - YouTube

 

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At The Drive-In / in・ter a・li・a

   別にそんなに思い入れは無いのに久々の新譜だ〜とか思って購入してしまったが、聴くほどにどんどん脳内年齢が下がっていくテンションの高さ。しかもちゃんと練られたアレンジで飽きない。良かった。

 

At The Drive In - Hostage Stamps (Official Music Video) - YouTube

At The Drive In - Governed by Contagions (Lyric Video) - YouTube

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発売日 2017/5/5

収録楽曲
1.No Wolf Like The Present
2.Continuum
3.Tilting At The Univendor
4.Governed By Contagions
5.Pendulum In A Peasant Dress
6.Incurably Innocent
7.Call Broken Arrow
8.Holtzclaw
9.Torrentially Cutshaw
10.Ghost
11.Hostage Stamps

BLACK LIPS / Satan's Graffiti Or God's Art?

   前半ポップで後半ぐにゃぐにゃになっていく展開はこれまでと同じながらプロデューサーのショーン・レノンの貢献なのか後半もメロディはクッキリしていて飽きない。個人的には"Crystal Night"が名曲過ぎると思った。あと息子プロデュースで"It Won't Be Long"のグダグタバージョンやってるのも良かった。

 

Black Lips - Can't Hold On (official video) - YouTube

Black Lips - Squatting in Heaven - YouTube

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発売日:2017/5/5

収録楽曲
01 Overture: Sunday Mourning
02 Occidental Front
03 Can't Hold On
04 The Last Cul de Sac
05 Interlude: Got Me All Alone
06 Crystal Night
07 Squatting in Heaven
08 Interlude: Bongos Baby
09 Rebel Intuition
10 Wayne
11 Interlude: E’lektric Spider Webz
12 We Know
13 In My Mind There's A Dream
14 Lucid Nightmare
15 Come Ride With Me
16 It Won't Be Long
17 Loser's Lament
18 Finale: Sunday Mourning

夜明け告げるルーのうた (2017・日)

   両親の離婚によって父(鈴村健一)とともに東京から漁港の田舎町・日無町で舟屋と傘作りを営む祖父(柄本明)の元へやってきた中学3年生のカイ(下田翔大)は両親への複雑な気持ちを口に出来ぬまま鬱屈した毎日を送っていた。そんなある日、独りで密かに大好きな音楽を制作していたカイのもとに、その音楽に誘われるように人魚の少女ルー(谷花音)がやってくる。島の伝承では人魚は害を為す存在とされていたが、天真爛漫な彼女との交流の中でカイは少しずつ心を開いていく。クラスメイトの国夫(斉藤壮馬)と遊歩(寿美菜子)のバンド「セイレーン」にも参加するようなったカイとルーだったが「セイレーン」で一緒に歌い踊るルーの存在は遊歩の祖父で町の唯一の産業を牛耳るえびな水産の会長(菅生隆之)の目にもとまり、会長たちはルーを町おこしに使おうと画策を始める。しかし人魚が厄災をもたらす存在と信じる町の人々との軋轢から町は混乱し、カイたちもそれに巻き込まれていくのだった…。

監督、脚本:湯浅政明、脚本:吉田玲子、キャラクターデザイン原案:ねむようこ、キャラクターデザイン、作画監督:伊藤伸高、フラッシュアニメーションチーフ:アベル・ゴンゴラ、ホカンマヌエル・ラグナ、美術監督:大野広司、音楽:村松崇継、アニメーション制作:サイエンスSARU。

 

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   アニメーションとしての動きを見ているだけで凄く楽しくて、特にルーや人魚犬の動きは気持ち良く、湯浅作品ならではのオリジナリティが炸裂していて素晴らしかった。それだけに動機付けが曖昧なままに進んでいく物語、時折挿入される監督の持ち味のサイケデリック場面での躁状態と作品のトーンとの齟齬、既存曲を主題歌に据えてること、先行作品とダブってしまったイメージなどが勿体無く思えてもしまった。

 

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    何のために何をやってるのか、何を救っているのか、など物語を推進させる動機そのものが曖昧で、クライマックスも盛り上げる為に盛り上げているようにしか思えなかった。人魚たちはどうしてそこまで捨て身で人間を救うのか理解出来ないし、むしろルーのパパ(篠原信一)とか人間皆殺しスイッチ入ってもおかしくないだろうと思ったが。単にピュアな奴らということなのか?

 

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    細かな部分では若い頃に旦那が人魚に殺されたと思い込み、ずっと人魚への恨みを糧に生きてきた老婆(青山穣)が、実は人魚に救われて自身も人魚となって生きていた旦那に迎えにこられて、「何で今頃〜」みたいなことを言っていたが、ほんとにその通りで、彼女は何十年と復讐と恨みだけに人生を捧げてきて、それが人生の最後になって全くの誤解だったと知らされ、そこでいくら自分もこれから人魚と化して永遠を生きることになるのだとしても、愛した男は昔のままの美男子で自分はヨボヨボの姿、しかも精神は荒廃しきっているという状態で共に永遠を生きるのってかなり残酷な話だと思うんだが。旦那は彼女を迎えに来るならもっと早く現れるべきだし、ここまで放置してたなら彼女の信念のままに人生を全うさせてやれよと思った。遊歩にしても都会に憧れるだけでなく、現実に今やれることをちゃんとやれるようにさせるという意図でのことだと思うが、クライマックスで人助けをすると言って避難のための町内放送をやりだして、それが成長譚のように描かれていたのだけど、それが遊歩がやるべきことなのか、放送はちゃんと慣れた先輩がやってるんだから遊歩のやるべきことは権力者の娘として暴走した身内を何とかするとか色々あるんじゃないのか、と思った。そんな感じで脇のキャラクターたちのストーリーをちゃんと回収してあげようとするあまり、色々と余計なお世話になってしまっていて、結局ストーリーのピントがぼやけているように感じた。

 

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    それと祭りで主人公たちのバンド演奏でルーが楽しく踊っていたら、実際に音を鳴らしていたのは雇われたおっさんたちだったという件、そこでルーはぎゃーとなって、こんな音にノれるかってなるんだけど、演奏してるのが誰であれ、音楽にヴァイブスがあったから踊ってたんじゃないの?と思った。ショックを受けた、というのは理解出来るんだけど。 

 

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    あと主題歌に既存の有名な楽曲を持って来たのは何でかな、と思った。既存の曲だとテーマに合致していることよりもこれまで消費されてきたイメージの方が先行してしまう。どうせなら制作協力に名前がクレジットされてたオオルタイチに渾身のポップソングを依頼すれば『君の名は。』のRADWIMPSみたいになったかも知れないのに、と思った。

 

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    それとこれは意図しないでだろうし、良くない訳でもなく、制作時期が被っているというのもあるんだろうけど、観ていて色々と既視感があった。人面魚的な可愛い女の子に手足が生えてくるというルーのキャラクターはデザインも含めてポニョを想起してしまうし、町内放送を多用する件は『君の名は。』が思い浮かぶ。あとこれは予告で観ただけだけど、ルーが魔術的に海水を操る際の水の表現は『モアナ』と被ってしまっていた。

 

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    その町内放送の部分など災害に対処する描写の比重がかなり大きくて、それも作品のバランスを崩していたように感じた。そのことは現実の災害を踏まえた上で人々が連携して避難を行なっていく段取りの重要性を反映させようという真面目さから来ているのかな。

 

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    などと色々気になったことをあげてしまったけど、長編初だという全編フラッシュアニメーションによる動きの表現、ルーや犬人魚たちの愛らしさを見ているだけで凄く楽しかったし、気になった部分も作品全体の雰囲気を損ねるものではなく、好きな映画だと思えたからこそ気になったという感じで、もっとああして欲しい、こうして欲しいという妄想が思わず膨らんでしまったのだった。

 

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『夜明け告げるルーのうた』予告映像 - YouTube

 

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メッセージ (2016・米)

     世界8箇所の空中に突然現れた巨大な宇宙船。各国が対応に追われる中、アメリカ政府はウェバー大佐(フォレスト・ウィテカー)をリーダーとして、言語学者ルイーズ・バンクス(エイミー・アダムス)、物理学者イアン・ドネリー(ジェレミー・レナー)らによる特別チームを編成しこれに当たった。宇宙船には後にヘプタポッド(七本脚)と呼称される知的生命体が搭乗しており、ルイーズたちは未知の言語と文字を持つ彼らとのコミュニケーションを図り、出現の目的を探り始める。ルイーズはおそらく離別してしまったと思われる娘の記憶のフラッシュバックによって混乱しながらもヘプタポッドの文字の解読を進めていくが、世界秩序は宇宙船の出現によって大きく揺らぎ始めていた…。
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ、脚色:エリック・ハイセラー、原作:テッド・チャン、撮影:ブラッドフォード・ヤング、プロダクションデザイン:パトリス・ヴァーメット、編集:ジョー・ウォーカー、音楽:ヨハン・ヨハンソン、視覚効果スーパーバイザー:ルイ・モラン。

 

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     ネタバレ全開です。

 
     とは言えそもそも世界戦争が始まってしまうかも⁉︎という物語の筋の一本は、そのキッカケを作りそうになるのが中国だという時点で既にネタバレじゃないか、と思ったが。最近のハリウッド映画での中国の扱い方は、ちょっと敵対的で価値観が共有出来ない相手かもと思わせておいて最終的には共闘出来る大物というところに着地させるパターンになっているので、今作で登場する中国軍の実力者シャン将軍(ツィ・マー)も強面だけど分かり合えちゃうんでしょ?と思えてしまうし、多大な資本をハリウッドに投下している中国を悪者にする訳ないやん、という裏事情まで透けて見えて萎えてしまった。

 

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     もっとも今作の本筋はそこじゃない、というのも分かってはいる。しかしせっかく巨大宇宙船がやってきているのに人物のアップばかり見せられる上にもったいぶった演出が続いて、だからと言って異文化間のコミュニケーションを丁寧に描いているかと言うと、劇的にコミュニケーションが捗る部分や主人公が最後に辿り着く思考への過程とか肝心な部分が描かれていないのはかなり不満だった。言語の解析の部分は監督ももっと時間をとりたかったと言っていたので、大作映画としてのバランスの為に泣く泣く削ったというのはあるようなんだけど、それでも主人公の傍らにいる物理学者が全く何も仕事をしていないことも含めて、ちょっとおかしなバランスになっていると思った。

 

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     原作においてはチームで、言語、物理双方から相互理解を進めていき、その過程において思考が変容していくことが本筋としてあったのだけど、今作ではそこを省いて国際的な危機という取って付けたようなスペクタルを加味した上に主人公一人が異星人から選ばれて劇的な意識の変容を行い、ヒロイックな活躍をするというおよそ原作のテイストから逸脱した改変を行った果てに様々な矛盾点だけが際立つということになっていて、なんだかな、という気がした。何より『ドラえもん』のエピソードにおける、「結局誰がこのマンガを描いたんだろうか」というタイムパラドックスを、ギャグじゃなくて大真面目に、しかもドヤ顔でぶつけてくるクライマックスのSF仕掛けは、もうちょっとSF的醍醐味を味あわせて下さいよ〜と思ってしまった。

 

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    あと主人公及び人類の、時間を流れていくものとして認識している世界と、始まりと終わりを円環状態として認識するヘプタポッドたちの世界観は、それぞれの世界に対する認識が異なっているというだけのことで、互いに等価だからこそノンゼロサムゲームが成立するはずなんだけど、この映画での描かれ方だとヘプタポッドがその認識方法を一方的に伝授して人間が超能力を獲得するという形に見えてしまっていて、それなら劇中でわざわざノンゼロサムゲームについて触れる必要がないとも思った。

 

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    そして何も得るものもないのにヘプダポッドがわざわざ飛来してきているのも意味不明で、3000年後に人類に救ってもらう為、などと語らせてはいるが、そんな理由は高速を超越して時間が無意味になっていて、存在の消滅も存続も全てが結論として見えている彼らの行動理由としては全く説得力を感じない。単にモノリス的な超存在にしたほうがそれっぽいから、というふうにしか見えなかった。

 

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    主人公はヘプダポッドの言語を学ぶことで彼らの世界認識を得て、未来を見通せる能力を発現させるのだが、見えている未来世界をあるがままに受け入れてただ流れのままに生きていくというのはどういう心情なのか。死や別離の到来を分かった上で虚無感と諦観に支配されないで毎日をかけがえのないものとして受け入れていくのは素晴らしいことだとは思うが、そんな神のような生き方を主人公が選び取れる根拠が分からないし、クライマックスになって急にヘプダポッドとスムーズに意思疎通が出来るようになるのと同様に飛躍し過ぎとしか思えない。

 

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    原作において過去未来に渡って曼荼羅のように世界を認識するようになる主人公というのは別に未来を分かった上で敢えてそれをなぞっていくというわけではなく、娘の存在を直線的な時の流れの中で感じ取るだけでなく、時の呪縛から解放された世界認識の中で娘が常に遍在するようにも感じられるようになるというもので、それによってただ生まれて死んで喪失してしまうだけという悲しみとは別の、何か希望のようなものが淡く浮かび上がってくるところが感動的だったのに、流れのままに進むとは言えそれを自らの選択によって勇敢に選びとっていく映画版はそれを台無しにしてしまっているように思えた。

 

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    と、なんか文句ばかり垂れた感じになってしまったけど巨大宇宙船が浮かんでいる図はカッコいいし、序盤でヘリの爆音が日常を消し飛ばしてしまう描写とかも好きだったりしたので、SFということで過剰な期待と要求を持った自分が悪い気もする。それに、もうこれでブレードランナー続編には不安しかなくなったので、あとは上がる一方の予定ということで良しとしよう。

 

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映画 『メッセージ』 予告編 - YouTube

 

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スウィート17モンスター (2016・米)

    ひねくれ者の高校生ネイディーン(ヘイリー・スタインフェルド)は高校では浮いた存在。それでも唯一の親友クリスタ(ヘイリー・ルー・リチャードソン)と周囲に毒づきながら過ごす日々を楽しんでいた。しかしクリスタが自分と正反対で人気者の兄ダリアン(ブレイク・ジェナー)と付き合い始めてしまい、疎外感を感じ始める。そんなネイディーンが、彼女を持て余す母親(キーラ・セジウィック)や、はぐらかしながらも相談に乗る教師ブルーナー(ウディ・ハレルソン)、彼女に恋するアーウィン(ヘイデン・ゼトー)らと関わりながら自分自身を見つめ直していく物語。
監督・脚本:ケリー・フレモン・クレイグ、撮影:ダグ・エメット、編集:トレイシー・ワドモア=スミス、音楽:アトリ・オーバーソン。

 

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    キャラといい音楽といい昔ながらのちょっとナードな青春物で17歳女子の話を装いながらおっさん向けのノスタルジー映画なのでは、とも思った。しかし監督は女の人だった。大人への分岐点という不変のテーマだが、出てくるキャラクターの類型が80年代の青春映画と変わらず、主人公の趣味嗜好もそれらに登場してそうなタイプで、何だかもっと今の物語があるんじゃないの?という気もした。

 

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    なので物語自体は安心して楽しめる居心地の良さだが、自分と違う他者を受け入れていくプロットにしては、真逆の存在として描かれている兄との確執と和解の輪郭がぼやけているように感じた。兄はスポーツ万能で人格者という設定だが、ナードな妹に対して特に嫌味を告げることもないし、妹と同じタイプのクリスタをパートナーに選んだことからも学園カーストを気にしているようにも見えず、そもそもの最初から妹のことを理解しているようなので、この兄妹の和解は単に主人公が兄のことを素直に認めたというだけの一方的なものでしかないように思えてしまった。だから主人公がホントに反目したり嫉妬すべき相手は彼女に片想いするアーウィンのほうじゃなかったかとも思った。彼は資産家の息子で芸術的才能もあり、ガタイもいいという、どう考えても世間の勝ち組だと思うんだけど。

 

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    良かったのはウディ・ハレルソン演じる先生で、主人公と同様のタイプで社会的にはハズレ者に見えても実際には充実した人生を送ることが出来るという希望の体現者になっていて、こういう人を登場させてくれるというのは主人公と同世代で現状に馴染めずにいる受け手にとって励ましになると思った。あと主人公の女の子が『トゥルー・グリット』の子供だということに全く気づいてなかった。デカくなってるけど、確かに顔は同じだ。

 

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映画「スウィート17モンスター」日本版予告 - YouTube

 

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