ミステリオを倒したスパイダーマンことピーター・パーカー(トム・ホランド)は、世間に正体を知られ、さらにはミステリオ殺害容疑もかけられてしまう。マスコミにも追われ、メイおばさん(マリサ・トメイ)やMJ(ゼンデイヤ)、ネッド(ジェイコブ・バタロン)ら仲間たちにも危害が及びかねない事態に陥ったピーターは旧知のドクター・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)の元を訪れて、彼の魔法に頼るが、その魔法は時空を歪ませ、並行する別世界のヴィランたちを呼び寄せてしまう事態を招く。
監督:ジョン・ワッツ、製作:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル、脚本:クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ、音楽:マイケル・ジアッキーノ、撮影監督:マウロ・フィオーレ、プロダクションデザイナー:ダレン・ギルフォード、編集:ジェフ・フォード、リー・フォルソム=ボイド、視覚開発主任:ライアン・メイナーディング。
ネタバレ含みます!
正体を世界に知られ、さらには殺人犯として糾弾されるという前作でのラストを受けて、一体どう続けるつもりだろうと構えていたら、ドクター・ストレンジの魔法でどうにかしようという展開で、ああ、そうだった、これアメコミだったわー、と毎度ながらにMCUが『ドラえもん』的な何でもアリの世界だったことを失念してしまっていた自分に驚く。いや、映画そのものにリアリティを感じて、その荒唐無稽なアイデアがアリなことをつい忘れちゃうんだよな。そしてこれも毎度おなじみの、世界の危機を自分で招く展開。これはもうお約束か。そしてCGや特殊効果の類いがそんな物語を進める上で全く違和感やストレスなく映画世界を作り上げてくれていて、今回もまた楽しい映画だった。
そして今作は、そんないつものマーベル映画としての面白さに加えて、マルチ・バースというファクターを新たに取り入れて、サム・ライミ版『スパイダーマン』と『アメイジング・スパイダーマン』シリーズをMCU版『スパイダーマン』に組み込むという離れ業をやってのけるという凄い展開を見せてくれて、いつも以上に興奮した。
『ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』のラストにおいて、トム・ハーディ主演の『ヴェノム』の世界がMCUに参加することが示唆された時点で、これまでのマーベル原作映画における制作会社間のゴタゴタを考えるとなかなかに感慨深さを感じたのだけど(それは現在のアベンジャーズにスパイダーマンが参加した時にも感じたことだったが)、まさかそれのみならず、過去のシリーズをも取り入れてくるなんて、ちょっと想像していなかった。しかもそれをマルチバースという新たな展開にメタ的に組み込んでくるなどというのは、MCUで大局的にストーリーを編んできたからこそ出来得たことで、さらにびっくりだった。そもそも多元宇宙などという世界観からして、一部のアメコミ好きかSF好き以外にそれほど馴染みのあるものじゃないのを、本編以外のアニメ映画『スパイダーバース』でさらりと提示して下地を作っておいたことも周到過ぎる。
で、トビー・マグワイア、アンドリュー・ガーフィールド、トム・ホランドという美形3人が揃い踏みするという画面だけでも贅沢なことになっていたのだけど、ウィレム・デフォー、アルフレッド・モリーナ、さらには不遇の『アメイジング〜』からジェイミー・フォックスらまでちゃんと再登場してくれたことも嬉しかった。足りないのはデイン・デハーンくらい…?とにかくアンドリュー・ガーフィールドが『MJ』を救って涙ぐむとか、救えなかったヴィランたちに再救済を与えるとか、トビー・マグワイアのスパイダーマンに再会出来たとか、過去シリーズを取り入れたことで味わえた感激は枚挙にいとまがないぐらいあって、マーベルユニバースを超越してホントのマルチバースとなった今回の映画世界はホントにヤバかった。
それと、今回の映画によってマルチバースという考え方がMCUの世界に定着すれば、死んだ人気キャラクターの復活や、それに伴うキャストの(年齢や性別含めた)変更も、余計な説明やリブートの手間など不要で簡単に行えるようになるわけで、マーベルとしては今よりさらに何でもアリの最強アイテムを手中にすることになる。こりゃコミックス同様、永遠に続けられるわ…。
なので、この映画、単体でどうこうという評価はしづらいし、この面白さは仮面ライダー映画で歴代ライダーが集合した時の興奮みたいな感じなのかもしれないが、こんな壮大な仕掛けが待っているだなんて、サム・ライミ版を見ていた頃の僕には想像もつかなかった未来だったし、こんな楽しい時間を作ってくれたことに感謝しかないよ。『エンドゲーム』のあと、コロナが流行したのもあって、MCUを追う気分も一段落した感じだったけど、やっぱりマーベル映画楽しいな〜と再認識したのだった。