赤い館村のシャーロット叔母様(大竹しのぶ)の家へ越してきた少女メアリ(杉咲花)は森の中で7年に一度だけ咲くという伝説の花「夜間飛行」を見つける。それは「魔女の花」と呼ばれ、一夜限りの魔女の力を手に入れることが出来る禁断の植物だった。魔女の力で箒に跨り空を飛んだメアリは、空の世界の魔法学校、エンドア大学へ迷い込んでしまう。彼女の魔法の力が天性の素質によるものと勘違いしたエンドア大学のマダム・マンブルチューク校長(天海祐希)や魔法科学者のドクター・デイ(小日向文世)はメアリを歓迎し、学内を案内する。しかし彼女の力がかつて赤毛の魔女(満島ひかり)によって学園から奪われた魔女の花によるものだと知るとメアリの友達ピーター(神木隆之介)を人質にとってその在り処を教えるよう迫る。メアリは再び魔女の花の力を借りてピーターの救出に向かうのだが…。
監督・脚本:米林宏昌、脚本:坂口理子、作画監督:稲村武志、美術監督:久保友孝、音楽:村松崇継、制作:スタジオポノック。
娘と鑑賞。キャラクターデザイン、背景美術から世界観に至るまでかなりジブリを感じさせる作りで、米林組がやっているのだから当たり前だけど、それだけに主人公のメアリを何気無い所作の合間のタメや、崩れた表情などの積み重ねで魂を吹き込まれた宮崎作品に登場する女の子と比べてしまって、その動きや表情の固さに違和感を覚えてしまった。演じた杉咲花の声も主人公のメアリと乖離していて、やはり違和感が終始付きまとった。杉咲花は好きだし、演技も上手いと思うけど、表情も含めた総体の演技と声のみの演技は別物で、向き不向きがあるんだな、と再認識もさせられた。ジブリ映画の流れからの有名俳優の声優起用が弊害として出てしまった感じか。しかし美術は素晴らしいし、魔法学校の校長や家政婦さんなどのおばさんキャラクターは生き生きとしていて(アリエッティでも家政婦のおばさんが良かった)、単に元気な女の子キャラが米林作品には向いてないんじゃないか、という気もした。
あと、ストーリーと世界観はかなり未完成で、この映画世界では天空に上がると魔法の存在する世界があるのだが、主人公の生活していた世界と魔法の世界が全くの異界なのか、何となく地続きなのかイマイチ判然としなかった。序盤、居間にテレビまであるような近代化された、恐らくは飛行機だって飛んでいるはずの世界を示したあとで、特に次元を超越することもなくちょっと空に浮かぶと魔法学校が存在していたりするのは一体どういう世界観なのかと思ってしまった。主人公と叔母さんの関係性も不思議で、血の繋がった親戚だとすると一体どういうことなのかと考えて、ますますこの世界の成り立ちが分からなくなった。そんな風に二つの世界の擦り合わせが雑過ぎて物語世界のリアリティが感じられないのは辛かった。ストーリーも、友達のピーターが悪役に捕まって大変だという時に寄り道して赤毛の魔女の過去を語らせたりと、全く緊張感を維持させてくれない進行で、どう考えても脚本が弱いとしか思えなかった。
それから、本作では魔法の力を原子力のメタファーとして扱っているようだったが、それも安直過ぎてむず痒かった。最終的に魔法の力を放棄するという流れは理解出来るものの、この物語世界の中で「魔法」というものが便利ではあるが主人公たちの生活している生活圏では認知もされていない、存在していなくても何の問題もないもの、という前提があるので、それを捨て去ること自体に葛藤が生まれず、物語の展開として特に感情に訴えるものになっていなかった。
ということで、ジブリに似てるからこそのもどかしさや、それとは関係なくどうなんだろうという部分が気になる作品ではあったんだけど、一緒に観た娘に感想を訊くと、「超面白かった!」と言ってたし、僕も好き嫌いで言えば好きなので、やっぱりいい映画。新海作品もいいけど、やっぱりあれはパンツ見せちゃうオタク映画なので、子供と見られるファンタジー映画をちゃんと作ろうという線は凄く貴重というのもある。米林監督にはこれからもどんどん映画を作って欲しいな。