yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

キリエのうた (2023年・日)

 上手く喋れないが歌では並外れた表現力を持つ住所不定路上ミュージシャン、キリエ(アイナ・ジ・エンド)は東京で旧知のイッコ(広瀬すず)に再会する。交友関係の派手なイッコはキリエのマネージャーに志願し、2人はデビューを目指して売り込みを開始する。その数年前、大阪では2人に関わりのある夏彦(松村北斗)が震災で行方不明になった婚約者を追って、婚約者の妹を保護したという小学校教諭、フミ(黒木華)のもとを訪れていた。

監督・脚本:岩井俊二、企画・プロデュース:紀伊宗之、撮影:神戸千木、音楽:小林武史

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 どこか岩井俊二の集大成的な作品のようにも感じたが、最近観る岩井作品はいつもそんな感覚があるので、やっぱりいつも通りの岩井作品か。物語自体は雑でわりとどうでもいい作りだったり、子役の使い方が抜群に上手かったり、あらゆる場面が抒情的で美しい、などといったところもこれまでのフィルモグラフィーと同様で、つまりいつも通りに面白いということなのだけど、その上で今作はアイナ・ジ・エンドという稀有なアイコンを得て、いつも以上にエモーショナルな作品にもなっていて、新鮮味があった。

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 そしてこちらの好きなものをバンバン投入してくるのも相変わらずだった。今作では七尾旅人が重要な役どころで登場するし、花澤さんまで歌で岩井ワールドに入ってきた。毎回のように特撮人脈や、ややアングラ寄りのアーティストを使ってくる感覚はどう考えてもこちら(オタク)側なんだが、本人からは全くその気配が漂ってこない、それどころか監督自身から漂うのは広告代理店的な自己演出感で、キャスティングなども含めて色々計算が働いてそうなんだけど、作品自体は感性と純粋さに溢れていて、ほんと謎である。感覚で生きてるように見えるのに作品自体は客観的な視点で作ってしまう勝新西村賢太の逆パターンなのか。そもそも今作も含めて少女への執着とかかなり気色悪い筈なのに、殆どそういう受け取られ方をされない立ち位置というのもかなり特殊だ。3.11のドキュメンタリー映画で見せたような、ちょっと行き過ぎたぐらいのピュアネスを持っていながら、日本映画のオーバーグラウンドの中心点で作品を作り続けられるのは、その外面の、こちら側からすると鼻持ちならない感じがあってこそだろうな、とは思う。

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 で、今作はやはりどうしたって主演のアイナ・ジ・エンドの歌が肝になっていて、陳腐な言い方だけど、ブルージーな歌声の存在感が際立っていた。声の感じからすればジャニス・ジョプリンとかエイミー・ワインハウスみたいにエモーショナルな悲劇性や情念の方向にいきそうだが、本人が飄々として、わりと普通な佇まいなのが暑苦しさ少な目で良かった。そして広瀬すずはもちろん良い…。すでに大物の貫禄すらあったよ。あと、出てくる業界人やセレブ層がいかにも実在してそうなキャラクターで、全員イヤな雰囲気を醸し出しているのも良かったし、流石だった。この業界人のヤな感じっていうのが、そのままこちらの岩井俊二への印象にも重なるというのが、ますます監督の謎深さを助長させてもくれるのだが…。

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映画『キリエのうた』本予告ディレクターズカットver【10月13日(金)公開】 - YouTube

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