yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

引き潮のとき (全5巻) / 眉村卓

    最初はこの分量からして、舞台であるタトラデン世界の変容から、シリーズの世界観を形作る連邦の趨勢までを描いていくのかと思ったが、実際は主人公である司政官キタがタトラデンに赴任しているわずかな期間の中で社会の状況と自己の心情について延々と考察していく様をしつこいほど文章化していくという行為を全5巻に渡って繰り広げる前代未聞のSFだった…。
   しかし読み進めていくうちに段々とそのしつこさが味になり癖になってくるという不思議な読み応え。基本的にキタのやっていることは自治世界を裏から操作して混乱させるという悪の所業で、しかしそれを物語として収束させることなく淡々とその作業を描写するのみなので、架空の政治・社会小説としての楽しさもあるが、かつて青春を過ごした故郷へ戻ったキタが昔のままにそこで暮らす人々と自分自身の変化を実感して少年時代と訣別するという苦い青春小説としての味わいが一番響いてきた。
    それにしてもこれだけ読み応え充分の力作が全巻通して読める状態にないというのは勿体無いよ。

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