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yudutarouログ

Twitter(ID:yudutarou)で観た映画を確認しようとしたら非常に面倒だったので、メモになるつぶやき(主に映画とか音楽)を移植。なので2014年まで時系列バラバラ。

この世界の片隅に (2016・日)

    昭和19年、広島市江波から軍港の街・呉の北條周作(細谷佳正)の元へ嫁いできたすず(のん(能年玲奈))は、見知らぬ土地と新しい家族との生活に馴染もうと奮闘するが、激化する戦争によって物資は欠乏していく。それでも明るく工夫を凝らして日々の生活を彩るすずだったが、理不尽な暴力の波はただ普通であろうとする彼女の小さな世界をも蝕んでいく…。監督、脚本:片渕須直、原作:こうの史代、監督補、画面構成:浦谷千恵、キャラクターデザイン、作画監督松原秀典美術監督:林孝輔、音楽:コトリンゴ、アニメーション制作:MAPPA

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    凄かった。漫画的表現の面白さを存分に駆使していながら精密なリアリティも同時に獲得した画面の完成度が半端ない。それによって過去の記憶、すずが描いた漫画、そして現在が等価に語られる物語とともに現実と幻想が並列に画面へと織り込まれて、幾重にも重なる層で構成された深みを獲得した作品になっていた。

 

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    もののけ的な存在が生活の中にごく自然に溶け込んだかのような世界の見せ方や、食卓を中心とした当たり前の生活風景を使って緩やかに日常が日常のまま戦時体制に侵食されていく様を描いていたりして、非日常と日常の境界線の曖昧さを見せているのは凄く現代的だったし、旧来的な価値観を現代的なフィルターを通さずに描いているようでいて、メタファーとしてのタンポポの綿毛や、最後に家族に加わる登場人物の存在によって、土地に帰属した生き方や血縁主義を礼賛することを巧妙に避けているなど、精密な時代の描写と魅力的なキャラクターで、一見ノスタルジーを喚起するように見せながら、決してそうした甘いだけの構造にはなっていないことに物凄く練られたバランス感覚を感じた。

 

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    そして些細な生活描写がどの場面も素晴らしかった。娘とこの映画を観た帰りに寄ったスーパーで、高騰している野菜の値段を見て、2人で溜息つきながら、劇中のすずの「このままキャラメルが100円になって靴下が三足1000円になって…こんな世界で生きていけるんじゃろうか」という台詞を、品物をキャベツやレタスに替えて真似しながら買い物してしまったほど台詞ひとつひとつもキャッチャーで印象的だった。

 

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    あと土地のディテールの細やかさと空間の見せ方も良くて、すずたちが嫁入り先へ歩いて行く場面だけで、これから住む家と町との位置関係や、呉の形状までが自然と把握出来てしまうなど映画を支える目に見える世界観の構築も見事だった。

 

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    そして何より主人公すずのキャラクターが魅力に溢れていた。ぽわっとした普段の柔らかな表情から、失敗してあちゃーとなる顔付き、色っぽい顔付き、そして絵を描く際の真剣で凛々しい姿。様々な表情を内包した一人の人間としてすずの存在がリアリティを持つことで、日常が少しずつ変容していく様が生々しく、クライマックスの慟哭が胸を刺した。そしてすずの輪郭をさらに増幅させる能年玲奈の声が圧倒的で、すずのモノローグによるナレーションも全篇に渡っていることもあり、映画の世界観が彼女の声によって成立していたと言っても過言ではないぐらいだった。能年玲奈が芸能界から干され気味で大変だという話題も聞くけど、人気者として次々に映画に出て、テレビドラマにも出て、CMやバラエティで存在を消費されまくって飽きられて消えていくより、今回のような役をじっくりと演じてくれるほうが観ている側にとっては幸福だったりするのかも知れない。もちろん能年玲奈自身がやりたいことはやれる状態であって欲しいけど。

 

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    さらに脇で支えるキャラクターの造形と役者たちも素晴らしかったし、痛切でありながら決して説教じみた暗い作品ではなく楽しさにも満ちていて、何度も観たくなる傑作だったな〜。

 

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映画『この世界の片隅に』予告編 - YouTube

 

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