書籍
タイトルと装丁から普通に吸血鬼小説だろうと思いつつ読み始めたら、「吸血鬼」という表題は政治における搾取する側、される側、アートにおける作り手と受け手の関係性など、社会における様々な事象のメタファーとして掲げられていて、幼稚な期待感は悉く肩…
表題作、舞台となる小学校の雰囲気や生徒の感情のリアリティが凄くて、やっぱり藤野可織凄い!となる。その他の短編も物語の形はそれぞれ全く違いつつもアイデアに溢れ、恐怖とユーモアの混在した短編になっていて、非常に楽しかった。諸星大二郎と少女マン…
分類としてはホラーみたいだし、日常に立ち現れる狂気と怪異の恐怖をちゃんと感じさせてもくれたけど、同時にキャラクターが基本的にネアカで、特に語り手の背後霊たち(?)の前向きな姿勢が陰惨な展開にも軽やかさを感じさせ、明るく楽しい娯楽作品のように…
拡張高さとダークな雰囲気が味わい深く、映像でしか出せないショック表現を駆使したヒッチコックの映画版とは全く異なる印象の表題作『鳥』を始め、SF的展開が楽しめる『モンテ・ヴェリテ』『裂けた時間』、幻想的な『恋人』『番』『林檎の木』、ミステリー…
立ち読みで冒頭だけ読んでSFだと思って買っていて、やっと読んだら団地小説だった。とは言えリアルな下層生活が捻た主人公の視点に更なる俯瞰を加えて描写されていて、その意味ではSF的だったかも。物語全体というより細かなエピソードやそのディテールが面…
異星人なのか異民族、異教徒なのかどうとでも読み取れる「プーカ人」の物語。妄想と現実が曖昧なプーカの子供達の世界が単純にホラ話として抜群に面白く、そんな子供達の冒険小説としても楽しいし、終盤に向けて暴力と血にまみれた犯罪小説のようになってい…
登場人物たちの一筋縄ではいかない感じや、彼らを描ききることなく次の描写へと向かう断片的にも思えるエピソードはいかにもゴーメンガースト的だったが、独特の文体自体がシリーズの世界観を構築する要だったこともあって今作の語り口の違いには違和感があ…
前々作の感想↓タイタス・グローン / マーヴィン・ピーク著・浅羽莢子訳 - ゆづログ前作の感想↓ゴーメンガースト / マーヴィン・ピーク著 浅羽莢子訳 - ゆづログ あわわわ、どうなってるんだ!と、読み始めてすぐに頭が混乱状態になった。前2作で圧倒的な…
前作の感想↓タイタス・グローン / マーヴィン・ピーク著・浅羽莢子訳 - ゆづログ 古い石造りの城とそれに呼応した修辞技法満載の文章で暗く深いゴーメンガーストの世界そのものを描き切っていた前作から一転、今作では確立された世界の中で登場人物たちが軽…
『赤い影』という傑出した映画はニコラス・ローグの作家性が隅々まで噴出している作品だと思っていたが、原作である本短編集の表題作『いま見てはいけない』を読むと、映画のエッセンスのほとんどがこの原作小説に初めから内在していて驚いた。当然『赤い影…
ファンタジーというと剣と魔法のアクションみたいな作品が幅を利かしているけど、読みたいのはこういうものなんだよ〜、と嬉しくなる小説。 ゴーメンガーストという現実から全く切り離された世界の構築が見事で、古くから綿々と積み上げられ続け、増殖して…
原書と比較するスキルも時間もないので、どこまで元の感触に近いのか、変わっているのか不明だが、理系の理屈で物語を積み上げていく部分など、円城塔作品に近い読み応えだった。ただこちらは観念的世界の構築よりも、主人公のエモーショナルな語りにより重…
前半は主人公である『私』がプラハで回想する、カーボベルデとカナリア諸島の間に位置するとある島に滞在した際の不思議な文化の見聞録になっていて、食生活、居住環境、言語、生業その他様々な角度からその島の有り様が記されていくのだが、島民の価値観が…
実際の授業・講義の採録という形式なので文章としてカッチリ構成されたものではなく、内容的にも著者の著作や発言をチェックしている向きにはかなり物足りないと思う。しかし著者を『あまちゃん』の人としてのみ認識している層に向けて音遊びの会での活動な…
最初はこの分量からして、舞台であるタトラデン世界の変容から、シリーズの世界観を形作る連邦の趨勢までを描いていくのかと思ったが、実際は主人公である司政官キタがタトラデンに赴任しているわずかな期間の中で社会の状況と自己の心情について延々と考察…
サミュエル・R・ディレイニーの全中短篇を網羅しているらしいので、高価だが充分元が取れそうなので購入。 現実世界から乖離した設定と物語、面白小道具、大道具でSFエンターテイメントを存分に楽しませながら、性的、人種的マイノリティー側からの視点やサ…
本多猪四郎の怪獣映画は大好きだが、正統的SF映画としてでなくジャンル映画として見ている部分が多かったし、監督としても特撮パート以外の、比較的どうでもいいと思い込んでいたドラマ部分の担当というイメージが無いわけではなかった。 しかし本書を読む…
本屋でたまたま見かけて買ってしまった。『輝夜姫』の途中で挫折して以来の清水玲子作品だが、絵の感じは変わらず綺麗で良かった。少しヘヴィな内容ながら出てくるキャラの造形は浅めというのは以前と変わらずだが、今作はSF要素が皆無なので作品全体のリア…
今迄やってたネタを色々使いながら読み易くした感じなのかな、と思いつつ読んでいたけど、終盤、ある人物が登場して、その出現自体は予想の範囲内ながら、そこでその人物が激昂し、まくし立てるのが可笑しく、しかもそれがメタ構造を更にメタにしていくよう…
役から来るイメージよりもかなり無頼な人だったんだな。勝新に愛され松田優作に一目置かれたのも納得。前半の本人へのインタビューで特撮モノへの真摯な態度を表明しているのも良かった。あと岡本喜八、水谷豊の語りがエピソードもチャーミングで面白かった…
殆どがくだらないウンチクとパロディで構成された押井守の真骨頂的奇書で面白いんだけど、中盤から徐々に失速していくのがやや残念なとこか。そもそもハンバーガーや牛丼が立喰なのかっていう以前からのどうでもいい疑問も浮かんでくる。しかし各章表紙のモ…
『国家と言葉』の関係についての考察が、同時に言葉のみならず世界を語る視点を示唆していて、社会の基準から外れた諸々を勇気づけるような面白さがあった。特に最終章のピジン語・クレオール語にまつわる物語は感動的だった。
1番驚いたのは日下三蔵による編者解題で書かれていた『まどマギ』脚本家虚淵玄が大坪砂男の孫だという話。だから何だって話かも知れんが、素直に「おおっ」となった。あと山村正夫などのエッセイで作者の酷い人間ぶりが描かれているのがやはり面白い。収録…
多層的に読める小説だけど、そのなかでも主人公とともに荒廃した都市ベローナをさまよって観光するのが楽しかった。ホログラムを纏って徘徊するスコーピオンズ、赤い目、二つの月などなど次々に出てくるイメージと、身体に巻き付けるプリズムや手に装着する…
浮遊するメカとか変わった世界とか、そういうメビウスを期待してたのでちょっと面喰らう。しかし巻末のホドロフスキーへのインタビューでインタビュアーが「女が最終的にクトゥルーに変容云々」と自説を述べていて(否定されてたが。)、なるほどな〜とか思…
駆け足の謎解きでぽかーんとはなったが、色々なSF的設定が、見せたいアクションやキャラクター、映像を素直に楽しませる為のテクニックだったと思えば全然構わない。エヴァがメカと美少女をやるために謎をてんこ盛りにするみたいなものか(関係ないけどパシ…
面白い。そして今回もエグい。今回はより内面のダークサイドを見せられる展開で、WWZでゾンビの空振りをさせられた気分を補填させてもらった。狂ってるのかまともなのか色々読める人物たちの顔付きもいい。大河ドラマでしか出来ないゾンビ状況の掘り下げは…
表題作、奇妙な二人称が捻れた感覚で読まさせてくれるのと、その視点から通常ではあり得ない心理描写等がされることで、小説の語り手が語っている状況そのものを妄想させて、そこがホラーになっている。面白い。『ちびっこ広場』はもう少しストレートな恐怖…
この物語世界に登場する膨大な固有名詞や専門用語を、好きな人はいちいち記憶したりメモしたりして読んでいるかも知れないが、個人的にはほぼ感覚だけで読んでいる。しかしその日常用語とはかけ離れた言葉で埋めつくされたムードが、独特の世界を作り、今時…
前2冊の収録作と比べて異常な雰囲気を味わえる作品は少なかったが、表題作などは読み物として楽しかったし、巻末収録の大坪砂男に関するエッセイなどで作者の厄介そうな性格を想像出来たのも良かった。あと一冊で終わりと思うと寂しいな…。